2016 Fiscal Year Research-status Report
中東地域における民衆文化の資源化と公共的コミュニケーション空間の再グローバル化
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16KT0098
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
西尾 哲夫 国立民族学博物館, 研究戦略センター, 教授 (90221473)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
齋藤 剛 神戸大学, 国際文化学研究科, 准教授 (90508912)
相島 葉月 国立民族学博物館, 先端人類科学研究部, 准教授 (40622171)
椿原 敦子 龍谷大学, 社会学部, 講師 (00726086)
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Project Period (FY) |
2016-07-19 – 2021-03-31
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Keywords | グローバル・コミュニケーション / 中東 / イスラーム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではグローバル化と中東地域の民衆文化に関する以下の研究項目を実施した。 1 「中間アラビア語」による社会空間を接合する言語社会的位相に関しては、(1)先発的グローバル・コミュニケーション空間の言語社会的位相の分析として、中間アラビア語の文献調査によってケンブリッジ大学図書館所蔵の中間アラビア語民話写本を発見し分析をした。(2)新生共通アラビア語の現代的動態の分析として、カイロの都市部中流層の共通アラビア語の調査ならびに20世紀以降のマスメディア登場による新生共通アラビア語の大衆文学の調査によって、エジプトを代表する歌手ウンム・クルスームの英訳全歌詞集を刊行した。また中東世界の民衆音楽の現代的動態に関する研究論文集を刊行した。 2 公共的コミュニケーション空間がグローバルな情報ネットワークに感応する社会空間として機能する社会動員的位相に関しては、(1)公共文化の創発プロセスの分析として、グローバル資源化した世俗文化としてエジプトに移入された空手がフランスの移民の間で公共性を獲得している状況を調査した。民衆/大衆という分析概念に関する文献学的情報収集による再検討として、フランスと日本の文化人類学における当該概念の異同について調査し国際学会で発表した。(2)グローバルな問題に感応して公共的コミュニケーション空間変容の外部要因として働く事例分析として、国民国家的統合性の高い公共的社会空間を構築してきたマッダーフ(宗教的哀悼歌手)の変容についてイランとアメリカ移民社会の比較調査をした。 研究成果の国際発信に関して特筆すべきこととして、現代中東地域研究事業との共催でグローバルな知識の環流という観点から現代中東世界における日本文化をテーマとした国際ワークショップ及び、フランス社会科学高等研究院との学術協定に基づいてパリで中東世界の民衆文化をテーマとした国際シンポジウムを開催した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1 「中間アラビア語」による社会空間を接合する言語社会的位相の研究に関して言えば、ケンブリッジ大学図書館で発見された中間アラビア語写本は、従来の中間アラビア語写本に比べて口語で書かれている程度が高く、同写本の分析によって特にこれまで研究が少なかった18世紀前後の中東世界の言語状況を解明するうえで有益な知見をえることができる。アラブ世界を代表するエジプトの国民歌手、ウンム・クルスームの全歌詞集の英語訳Complete Texts of Umm Kulthum’s Lyricsを現代中東地域研究民博拠点より刊行したが、外国語による全訳の出版は世界初の画期的業績であり、中東世界の音楽研究はもちろんのこと、特にエジプトの大衆文化を研究する上での基本的参考文献になるであろう。 2 公共的コミュニケーション空間がグローバルな情報ネットワークに感応する社会空間として機能する社会動員的位相の研究に関して言えば、このテーマでの研究成果をもとに、人間文化研究機構が包括的学術協定を締結しているフランス社会科学高等研究院(EHESS)との共催による国際シンポジウム「La culture populaire au Moyen Orient: Approches franco-japonaises croisees」(パリで平成29年3月27~28日に実施)を開催し、本研究の代表者及び分担者の全員が参加し研究発表をした結果、民衆/大衆という分析概念に関する再検討の場として有益な知見が得られただけでなく、中東地域の民衆文学の社会的位相に関する新たな視点を開拓することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も研究方法を継続して課題の解明を図るとともに、研究成果の発信につとめる。 1 「中間アラビア語」による社会空間を接合する言語社会的位相に関しては、(1)先発的なグローバル・コミュニケーション空間の言語社会的位相の分析として、中間アラビア語の文献調査及び中間アラビア語による民衆文学に関する書誌的調査を継続して行う。(2)新生の共通アラビア語の現代的動態の分析として、カイロの都市部中流層の共通アラビア語の調査を継続する。20世紀以降のマスメディア登場による新生共通アラビア語の大衆文学の書誌的調査を継続する。(以上、西尾・中道〔研究協力者〕担当) 2 公共的コミュニケーション空間がグローバルな情報ネットワークに感応する社会空間として機能する社会動員的位相に関しては、(1)公共文化の創発プロセスの分析として、グローバル資源化した世俗文化として移入された空手が都市部中流層のあいだで公共文化として変容する状況を継続調査する(相島担当)。フランスの植民地政策での民衆概念の資料調査を行う(齋藤担当)。(2)グローバルな問題に感応して公共的コミュニケーション空間変容の外部要因として働く事例分析として、中東地域と日本のグローバルな知識の還流に関する調査及びイスラモフォビア現象のグローバル化に関する調査を継続する(相島・西尾担当)。アラブ世界の公共的コミュニケーション空間の比較として、国民国家的統合性の高い公共的社会空間を構築してきたイランでの事例分析として、マッダーフ(宗教的哀悼歌手)とよばれる伝統文化の国家的儀礼への変容を継続して調査する(椿原担当)。 研究会を開催し研究情報を共有し計画全体に関して検討する。成果を取りまとめ学会発表や論文執筆を行う。※アラブ世界は現在、広域にわたって政情が不安定な状況にあるため、上記の海外調査は調査者の安全を考慮し、調査地域や日程を変更する可能性がある。
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Causes of Carryover |
エジプトのカイロにおいて、新生共通アラビア語の現代的動態の分析として都市部中流層の共通アラビア語に関する文献調査と参与調査、ならびに公共文化の創発プロセスの分析としてグローバル資源化した世俗文化として移入された空手が都市部中流層のあいだで公共文化として変容する状況に関する参与調査を本年度は集中して実施する予定であったが、調査を予定していた時期に相前後してテロ事件が勃発したため予定を変更せざるをえなくなり、必要な長期の調査が実施できなくなった。そのために本年度においては、次年度以降に予定していた移民社会での調査を国際シンポジウム参加等の機会を利用しておこなった結果、交付申請書提出時に予定していた旅費ならびに調査のための謝金の費目において交付申請額を下回らざるをえなくなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
エジプトのカイロにおいて、新生共通アラビア語の現代的動態の分析として都市部中流層の共通アラビア語に関する調査、ならびに公共文化の創発プロセスの分析としてグローバル資源化した世俗文化として移入された空手が都市部中流層のあいだで公共文化として変容する状況に関する調査を次年度は集中して実施するが、中東情勢の変化に応じて次年度以降に予定している他地域での調査を優先させる。また本年度の調査研究の結果、本研究課題の全体をより効果的に推進するために、グローバルな問題に感応して公共的コミュニケーション空間変容の外部要因として働く事例分析にかかる新たな事例研究のテーマとして、中東地域と日本のグローバルな知識の還流に関するテーマを設定することにしたため、次年度の調査研究においては、本年度より繰り越した研究費を充当することとする。
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Research Products
(18 results)