2018 Fiscal Year Research-status Report
中東地域における民衆文化の資源化と公共的コミュニケーション空間の再グローバル化
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16KT0098
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
西尾 哲夫 国立民族学博物館, グローバル現象研究部, 教授 (90221473)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
齋藤 剛 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (90508912)
相島 葉月 国立民族学博物館, グローバル現象研究部, 准教授 (40622171)
椿原 敦子 龍谷大学, 社会学部, 講師 (00726086)
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Project Period (FY) |
2016-07-19 – 2021-03-31
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Keywords | グローバル・コミュニケーション / 中東 / イスラーム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではグローバル化と中東地域の民衆文化に関する以下の研究項目を実施した。 1 「中間アラビア語」による社会空間を接合する言語社会的位相に関しては、(1)先発的グローバル・コミュニケーション空間の言語社会的位相の分析として、中間アラビア語の一変種であるガルシューニー文献(シリア文字によるアラビア語)としてアレッポ・シリア正教会所蔵ガルシューニー写本を分析し、その成果を刊行した。(2)新生共通アラビア語の現代的動態の分析として、エジプト映画「ヤギのアリーとイブラヒム」の映画監督のインタビューや映画の解説とあわせて現代中東地域研究資料として刊行した。 2 公共的コミュニケーション空間がグローバルな情報ネットワークに感応する社会空間として機能する社会動員的位相に関しては、(1)公共文化の創発プロセスの分析として、グローバル資源化した世俗文化としてアラブ人に移入された空手がイギリスの移民の間で公共性を獲得している状況を引き続き調査した。(2)グローバルな問題に感応して公共的コミュニケーション空間変容の外部要因として働く事例分析として、国際シンポジウム「フランス語によるアラブ=ベルベル文学における多声/多言語性(ポリフォニー」を開催した。研究者だけでなくアラブ世界でフランス語による著作活動をしている作家を招聘し、グローバルな文学空間における個人の表象と多言語性をテーマにする問題提起となる討論をおこなった。また国立民族学博物館が昨年度に協定を締結したイラン国立博物館において、「文化遺産とミュージアム」をテーマとした国際シンポジウムを開催した。 特筆すべきこととして、ナポレオンによるエジプト侵攻の学問的成果である『エジプト誌』の音楽に関する報告者として有名で中東地域の民族音楽研究のパイオニアであるヴィロトーによる未刊行の手稿本を発見しその校訂作業をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1 「中間アラビア語」による社会空間を接合する言語社会的位相の研究に関して言えば、「アラブの春」後の中東社会に生きる若者たちをテーマとしたドキュメンタリー作品の成果を英文で刊行したことは、中東地域に対する社会的な関心の高さを鑑み、一般市民への研究成果の還元として国際的にも高い評価を受けている。 2 公共的コミュニケーション空間がグローバルな情報ネットワークに感応する社会空間として機能する社会動員的位相の研究に関して言えば、国際シンポジウムを活発に開催して国際発信につとめた。特にアラブ世界におけるフランス語の役割をテーマとした国際シンポジウムでは、日本・ヨーロッパ・中東で活動するフランス文学研究者とアラブ文学研究者が、アラブ世界におけるフランス語文学というテーマで議論を交わす場を設定すること自体が画期的であったと言える。文学という現象から個人と社会の関係を問い直す地域研究の新たな挑戦であったが、作家による文学的行為の現場に研究者が協働するという新たな研究アプローチの可能性を開拓したものとして評価できる。 3 新発見のアラブ民衆音楽資料を校訂しており、「アラブ音楽」という概念が「アラブ」という民族概念と並行して西洋との交渉の中で醸成する19~20世紀初頭の中東世界における「民族音楽研究」の嚆矢となる文献として、中東音楽、特に他の文献には言及のない民衆・民俗音楽はもちろん民族音楽学の歴史的研究ひいては音楽史研究自体にとっても大きな貢献となる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も研究方法を継続して課題の解明を図るとともに、研究成果の発信につとめる。 1 「中間アラビア語」による社会空間を接合する言語社会的位相に関しては、(1)先発的なグローバル・コミュニケーション空間の言語社会的位相の分析として、中間アラビア語の文献調査及び中間アラビア語による民衆文学に関する書誌的調査を継続して行う。(2)新生の共通アラビア語の現代的動態の分析として、カイロの都市部中流層の共通アラビア語の調査を継続する。現代アラビア語諸方言の動態に関する国際シンポジウムを企画する。(以上、西尾・中道〔研究協力者〕担当) 2 公共的コミュニケーション空間がグローバルな情報ネットワークに感応する社会空間として機能する社会動員的位相に関しては、(1)公共文化の創発プロセスの分析として、グローバル資源化した世俗文化として移入された空手が公共文化として変容する状況を継続調査する(相島担当)。グローバル化したベリーダンスの調査を行う(西尾担当)。フランス・英国の植民地政策での民衆概念の資料調査を行う(齋藤担当)。(2)グローバルな問題に感応して公共的コミュニケーション空間変容の外部要因として働く事例分析として、中東地域と日本のグローバルな知識の還流に関する調査及びイスラモフォビア現象のグローバル化に関する調査を継続する(相島・西尾担当)。アラブ世界の公共的コミュニケーション空間の比較として、国民国家的統合性の高い公共的社会空間を構築してきたイランでの事例分析として、伝統文化の変容を継続して調査し、日本との文化的還流現象に関する調査を行う(椿原担当)。 研究会を開催し研究情報を共有し計画全体に関して検討する。成果を取りまとめ学会発表や論文執筆を行う。※アラブ世界は現在、広域にわたって政情が不安定な状況にあるため、上記の海外調査は調査者の安全を考慮し、調査地域や日程を変更する可能性がある。
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Causes of Carryover |
(理由) 2018年6月18日に発生した大阪府北部地震によって国立民族学博物館の建物にも大きな被害を受けた。既に実施予定の研究集会については会場を館外にするなどの対応を迫られるとともに、招聘者の一時的停止など国立民族学博物館で実施する研究集会について慎重な計画の見直しが必要となった。そのため建物復旧後には、当初の研究計画から年度後半に研究集会が集中することになった。ただし、オックスフォード大学で予定していた国際シンポジウムを次年度に延期した。 (使用計画) グローバルな問題に感応して公共的コミュニケーション空間変容の外部要因として働く事例分析にかかる新たな事例研究として、中東地域と日本のグローバルな知識の還流に関する研究を積極的に推進してきたが、オックスフォード大学中東研究所と共催でこのテーマによる三回目の国際シンポジウムを開催し、その成果を英文論集としてイギリスの出版社から刊行する準備をする。グローバルな問題に感応して公共的コミュニケーション空間変容の外部要因として働く事例として、地球規模で拡大するイスラモフォビア現象の研究をさらに推進するために、ムスリム移民の排斥に見られるイスラモフォビアの問題など社会的心性に関わる諸問題について議論するために組織した民博共同研究「グローバル時代における「寛容性/非寛容性」をめぐるナラティヴ・ポリティクス」と協働していく。
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Research Products
(24 results)