2019 Fiscal Year Research-status Report
中東地域における民衆文化の資源化と公共的コミュニケーション空間の再グローバル化
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16KT0098
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
西尾 哲夫 国立民族学博物館, グローバル現象研究部, 教授 (90221473)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
齋藤 剛 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (90508912)
相島 葉月 国立民族学博物館, グローバル現象研究部, 准教授 (40622171)
椿原 敦子 龍谷大学, 社会学部, 准教授 (00726086)
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Project Period (FY) |
2016-07-19 – 2021-03-31
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Keywords | グローバル・コミュニケーション / 中東 / イスラーム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではグローバル化と中東地域の民衆文化に関する以下の研究項目を実施した。 1 「中間アラビア語」による社会空間を接合する言語社会的位相に関しては、先発的グローバル・コミュニケーション空間の言語社会的位相の分析として、『ガラン版千一夜物語』(岩波書店)の翻訳においてはフランス語原典初版を底本としたが、ガランが底本とした、中間アラビア語で書かれた15世紀のアラビア語写本と照合しながら作業を進めた。フランス語文献学および中世アラビア語文献学の双方からガラン版を再評価することで、新たな発見や新たな研究テーマの開拓につながった。 2 公共的コミュニケーション空間がグローバルな情報ネットワークに感応する社会空間として機能する社会動員的位相に関しては、(1)オックスフォード大学中東研究所との共催で国際シンポジウム「Neither Near Nor Far: Encounters and Exchanges between Japan and the Middle East」(於・オックスフォード大学)を開催した。「Beyond Orientalism: Studying Belly Dance as a Globalised Cultural Phenomenon」と題した基調講演を行い、文化的な知識のグローバルな還流経路を探るにあたり、西洋を基点として行われてきた中東と日本の文化交流の様相について検討し、グローバル化論における新たな研究地平の開拓を目指した。(2)龍谷大学の協力のもとに国際ワークショップ「『シャルギー(東洋人)』上映ワークショップ」を開催し、「井筒俊彦と言語学―言葉・文化・思惟の関係性をめぐって」と題した基調講演を行い、現代言語学の知見から井筒俊彦の思考を解体し、言語と文化と思惟の関係性にかかる人文科学として再構築する可能性について提言した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1 アラビアンナイト研究の射程には、日本における中東観形成の研究を通じてさらに「中東地域」という概念そのものの文明史的意味を再考察することが必然的に入ってくる。ヨーロッパにとっての中東は、自分の姿を映す鏡のような存在であるという意味でヨーロッパの他者であり、ヨーロッパの自己確認作業において必須の存在だった。ところが異郷としての中東しか意識できなかった日本では、他者としての中東イメージは育まれなかった。近代化をめざす日本は自分の姿をヨーロッパに重ねてヨーロッパが中東に向けたのと同じようなまなざしで中国をながめることになり、近代以降の中東が日本の内省的自己像に反映されることはなかった。日本は中東との間に錯綜した利害関係の歴史を持たなかったにもかかわらず、ヨーロッパ中心主義を無意識のうちに身にしみこませてしまった。今後はこのようなヨーロッパ中心主義を自覚しつつ、ヨーロッパとは異なった視点で中東をとらえなおしていく必要があることを提示できた。 2 オックスフォード大学中東研究所との国際的共同研究による国際シンポジウム「Neither Near Nor Far: Encounters and Exchanges between Japan and the Middle East」(於・オックスフォード大学)や、基調講演「井筒俊彦と言語学―言葉・文化・思惟の関係性をめぐって」をおこなった国際ワークショップ「『シャルギー(東洋人)』上映ワークショップ」は、「中東地域」を思考の場として世界システムを考察してきた研究を再評価することによって、地球社会における認知地図解明のための新たな存在意義を有する「中東地域研究」ひいては「地域研究」という学問領域を再構築するための準備作業であると言えるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も研究方法を継続して課題の解明を図るとともに、研究成果の発信につとめる。 1 「中間アラビア語」による社会空間を接合する言語社会的位相に関しては、(1)先発的なグローバル・コミュニケーション空間の言語社会的位相の分析として、中間アラビア語の文献調査及び中間アラビア語による民衆文学に関する書誌的調査を継続して行う。(2)新生の共通アラビア語の現代的動態の分析として、カイロの都市部中流層の共通アラビア語の調査を継続する。(以上、西尾・中道〔研究協力者〕担当) 2 公共的コミュニケーション空間がグローバルな情報ネットワークに感応する社会空間として機能する社会動員的位相に関しては、(1)公共文化の創発プロセスの分析として、グローバル資源化した世俗文化として移入された空手が公共文化として変容する状況を継続調査する(相島担当)。グローバル化したベリーダンスの調査を行う(西尾担当)。中流層観に関する比較調査をエジプトとモロッコで行う。(齋藤担当)。(2)グローバルな問題に感応して公共的コミュニケーション空間変容の外部要因として働く事例分析として、中東地域と日本のグローバルな知識の還流に関する調査及びイスラモフォビア現象のグローバル化に関する調査を継続する(相島・西尾担当)。アラブ世界の公共的コミュニケーション空間の比較として、国民国家的統合性の高い公共的社会空間を構築してきたイランでの事例分析として、伝統文化の変容を継続して調査し、日本との文化的還流現象に関する調査を継続する(椿原担当)。 海外研究協力者を招聘して国立民族学博物館ならびに人間文化研究機構の「現代中東地域研究事業」との共催で国際シンポジウムを開催する。成果を取りまとめ学会発表や論文執筆を行う。※現在の世界状況に鑑み、上記の海外調査は調査者の安全を考慮し、調査地域や日程を変更する可能性がある。
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Causes of Carryover |
(理由) 2018年12月以降にイランの情勢が不安定化したことによって、イランのイスパファーンで開催を予定していたイラン国立博物館との学術協定による国際シンポジウムを中止せざるをえなくなったばかりか、それ以降の新型コロナウィルスによる世界的な感染状況によって、2月に海外から研究者を招聘し国際シンポジウムを開催する予定であったが中止した。同時期に予定していた、フランス・パリの出版社との成果編集作業も中止せざるをえなくなった。 (使用計画) グローバルな問題に感応して公共的コミュニケーション空間変容の外部要因として働く事例分析にかかる新たな事例研究としての国際シンポジウムを、世界の状況をみながら年度内には開催する。グローバルな問題に感応して公共的コミュニケーション空間変容の外部要因として働く事例として、歴史心性としての旧来の世界認識が、個人空間と制度的システム(国家や共同体)との間で生起するナラティブ・ポリティックスに感応して、いかなるグローバルな地域性を獲得しようとしているかについてモデル化するため、グローバルに往還する文化現象を類型化し、断片的ではあるが地球社会の認知地図を描こうとしてきた従来の研究枠組みを批判的に再検討するために開始する国立民族学博物館の特別研究(代表・西尾哲夫)と連携して研究を深化させる。
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Research Products
(25 results)