2020 Fiscal Year Research-status Report
中東地域における民衆文化の資源化と公共的コミュニケーション空間の再グローバル化
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16KT0098
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
西尾 哲夫 国立民族学博物館, グローバル現象研究部, 教授 (90221473)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
齋藤 剛 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (90508912)
相島 葉月 国立民族学博物館, グローバル現象研究部, 准教授 (40622171)
椿原 敦子 龍谷大学, 社会学部, 准教授 (00726086)
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Project Period (FY) |
2016-07-19 – 2022-03-31
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Keywords | グローバル・コミュニケーション / 中東 / イスラーム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではグローバル化と中東地域の民衆文化に関する以下の研究項目を実施した。 1 「中間アラビア語」による社会空間を接合する言語社会的位相に関しては、(1)先発的グローバル・コミュニケーション空間の言語社会的位相の分析として、『ガラン版千一夜物語』(岩波書店、全六巻)の最終巻を刊行し、本邦における最初の全訳を完了した。本訳業を通してガラン訳テキストの底本に係る新発見を含めて形成過程に関する新知見を得た。 2 公共的コミュニケーション空間がグローバルな情報ネットワークに感応する社会空間として機能する社会動員的位相に関しては、(1)人間文化研究機構が学術協定を締結しているフランス社会科学高等研究院と共催した国際シンポジウムの成果を国際共同編集して刊行した。既存の「民衆」概念では等閑に付されてきた「民衆文化」の編成とその資源としての活用という新たな現象の生起と、それに伴う人びとのアイデンティティー、社会関係の再編が中東世界において新たな文化の再編/創造をもたらしている状況について、主としてフランス側からは社会史的な視点、日本側からは民族誌的な視点から議論をした。日本の中東地域をフィールドとする人類学者と中東研究に豊かな学的蓄積を有する社会科学高等研究院の研究者からなる本論集は、メタレベルで研究枠組みを可視化する試みとしての研究成果を国際的に還元できた。(2)人間文化研究機構が学術協定を締結しているパリ日本文化会館でオックスフォード大学中東研究所と共催した国際シンポジウムと、アラブ文学研究では初の試みとなる国際企画としてアラブ文学とくに詩の伝統における個人と社会をテーマに実施した国際シンポジウムの成果として英文論集を刊行した。文学研究と地域研究を学際的に架橋する試みとして、アラブ地域の文学おいて個人と世界、個人的空間と公的空間の関係がどのように位置づけられているかを考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに実施した以下の国際シンポジウムの成果を欧文で刊行し研究成果を国際発信することができた。フランスの社会科学高等研究院(EHESS)と共催した2件の国際シンポジウム(「Formation d‘une “culture populaire” au Moyen Orient: un reexamen de la notion de “populaire」2015年、大阪。「La culture populaire au Moyen-Orient:Approches franco-japonaises croisees」2017年、パリ)の成果を国際共同編集し、『Sur la notion de culture populaire au Moyen-Orient : Approches franco-japonaises croisees』として刊行した。パリ日本文化会館でオックスフォード大学中東研究所と共同開催した国際シンポジウム「French Orientalism and Its Afterlives in Japan and the Middle East」(2018年、パリ)と、アラブ文学研究では初の試みとなる国際企画としてアラブ文学とくに詩の伝統における個人と社会をテーマに、アラブ古典詩研究の世界的権威スケトケヴィッチ・シカゴ大学名誉教授を招聘して実施した国際シンポジウム(民博で2018年に開催)の成果として英文論集『The Personal and the Public in Literary Works of the Arab Regions』を刊行した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も研究方法を継続して課題の解明を図るとともに、研究成果の発信につとめる。 1 「中間アラビア語」による社会空間を接合する言語社会的位相に関しては、(1)先発的なグローバル・コミュニケーション空間の言語社会的位相の分析として、中間アラビア語の文献調査及び中間アラビア語による民衆文学に関する書誌的調査を継続して行う。(2)新生の共通アラビア語の現代的動態の分析として、カイロの都市部中流層の共通アラビア語の調査を継続する。(以上、西尾・中道〔研究協力者〕担当) 2 公共的コミュニケーション空間がグローバルな情報ネットワークに感応する社会空間として機能する社会動員的位相に関しては、(1)公共文化の創発プロセスの分析として、グローバル資源化した世俗文化として移入された空手が公共文化として変容する状況を継続調査する(相島担当)。グローバル化したベリーダンスの調査を行う(西尾担当)。中流層観に関する比較調査をエジプトとモロッコで行う(齋藤担当)。(2)グローバルな問題に感応して公共的コミュニケーション空間変容の外部要因として働く事例分析として、中東地域と日本のグローバルな知識の還流に関する調査及びイスラモフォビア現象のグローバル化に関する調査を継続する(相島・西尾担当)。アラブ世界の公共的コミュニケーション空間の比較として、国民国家的統合性の高い公共的社会空間を構築してきたイランでの事例分析として、伝統文化の変容を継続して調査し、日本との文化的還流現象に関する調査を継続する(椿原担当)。 海外研究協力者を招聘して国立民族学博物館ならびに人間文化研究機構の「現代中東地域研究事業」との共催で国際シンポジウムを開催する。成果を取りまとめ学会発表や論文執筆を行う。※現在の世界状況に鑑み、上記の海外調査は調査者の安全を考慮し、調査地域や日程を変更する可能性がある。
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Causes of Carryover |
(理由)新型コロナウィルスによる世界的な感染状況によって、2020年度に予定していた海外調査が不可能になった。また海外から研究者を招聘し国際シンポジウムを開催する予定であったが中止した。 (使用計画)グローバルな問題に感応して公共的コミュニケーション空間変容の外部要因として働く事例分析にかかる新たな事例研究としての国際シンポジウムを、世界の状況をみながら年度内には開催する。 グローバルな問題に感応して公共的コミュニケーション空間変容の外部要因として働く事例として、歴史心性としての旧来の世界認識が、個人空間と制度的システム(国家や共同体)との間で生起するナラティブ・ポリティックスに感応して、いかなるグローバルな地域性を獲得しようとしているかについてモデル化するため、グローバルに往還する文化現象を類型化し、断片的ではあるが地球社会の認知地図を描こうとしてきた従来の研究枠組みを批判的に再検討するために開始する国立民族学博物館の特別研究(代表・西尾哲夫)と連携して研究を深化させる。
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Research Products
(16 results)