2017 Fiscal Year Research-status Report
認知症早期発見時代のネオ・ジェロントロジー:当事者の視点を活かす臨床構築に向けて
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16KT0123
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
北中 淳子 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (20383945)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 晃仁 慶應義塾大学, 経済学部(日吉), 教授 (80296730)
繁田 雅弘 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (90206079)
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Project Period (FY) |
2016-07-19 – 2019-03-31
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Keywords | 認知症 / 医療人類学 / 予防医学 / 早期発見 / 疫学 / 老い / 文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
北中は、認知症の疫学と早期発見の歴史研究と国際比較、認知症の臨床実践に関する参与観察、当事者運動の分析の三つの軸で研究を進めた。①欧米での招聘講演を通じて、日本の認知症医療・疫学・予防医学に関する特徴と、人類学的論点を明確化できた。特に、アジア・欧米の研究者とのディスカッションを重ねることで、世界での超高齢化社会の先端を行く日本が、この領域において他国のモデルとみなされており、日本の認知症政策や医療実践、当事者運動の在り方にも独自な展開がみられることが確認できた。さらに久山町研究に関しては、海外の疫学研究者との意見交換から、長期疫学調査に関して国際比較的に分析していく視点を得られた。②メモリークリニックでの参与観察と、久山町での医師に随行しての臨床実践の観察、医師・保健師のインタビューから、都市部での日常生活に違和感を抱く人々が自ら訪れるような早期発見の場と、コミュニティ全体で認知症予防に取り組んでいる地方の共同体で、人々の健康観や老いがどのように語られるのか、その差異について分析を進めている。③国内外の認知症専門家の話を伺い、予防医学の専門家の間でも早期介入についての異なる見解も含め論争の歴史的経緯を整理し、当事者運動をめぐる論点を整理できた。現在も、認知症の当事者運動は驚くほどの速さで発展しており、特に海外との交流を通じて運動も急速にグローバルな展開を見せている。今後はより系統的な聴き取りを行うことで、実証的に分析したい。繁田教授は、アルツハイマー型認知症の人に対して、病感や病識をふまえた支持的精神療法の可能性について検討し、その過程で外来森田療法を応用することも治療的であるとの考察に至った。次年度も引き続きアルツハイマー型認知症に代表される認知症疾患の不安や抑うつに対して精神療法の適応可能性を検討するが、支持的精神療法だけでなく外来森田療法の応用も試みる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
二年目は、文献調査を行うとともに複数の場で人類学的調査を行った。具体的には、①共同研究者である繁田教授のご協力の下、メモリークリニックでの調査を続けるとともに、そのほか複数の認知症臨床現場でもフィールドワークを行い、神経内科、精神科等で異なるアプローチについて学んだ。②クリニックや、複数の認知症当事者の会に参加し、認知症早期発見に関して医師のみならず、患者・家族・行政官の方にインタビューを行った。③久山町での疫学調査について引き続き、医師、保健師、住民のインタビュー調査を行った。④オスロ大学・マギル大学神経学研究所・愛知医科大学・自治医科大学での招聘講演と、アメリカ人類学会での発表を通じて国内外の専門家と意見交換を行った。⑤認知症の早期発見について議論するシンポジウムを開催し、この領域の大御所であられるマーガレット・ロック先生と多数の医師をお迎えしてネオ・ジェロントロジーに関するシンポジウムを行った。その場での活発な議論を通じて、認知症をめぐる予防医学に関して人類学的視点からの分析を深めることができた。この結果は『老年精神医学雑誌』に発表されることになっており、同時に現在、クリニックでのフィールドワークと久山町研究に基づいた英語論文を二本準備中である。さらに、シカゴ大学のマイケル・フィッシュ先生と、LSEのローラ・ベア先生と意見交換する中で、認知症予防と「健康と町づくり」のテーマについても深めることができた。2月にはジョンズホプキンス医学史の学部長であるジェレミー・グリーン先生を慶應にお迎えし、11月のアメリカ人類学会でもグリーン先生と、ハーバードのレベッカ・レモフ先生をはじめとしたメンバーと共同で公衆衛生の歴史についてのパネルディスカッションを行った。医療と人類学を架橋するネットワークを通じて、認知症を超えより広く「健康な町づくり」についての分析に着手しつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は、調査結果の分析を深めるとともに、その成果を日本語・英語両方で論文(可能であれば著書)として発表する準備を進めたい。①前期はクリニックや当事者会におけるインタビュー調査を継続するとともに、夏以降久山町では集団健康調査の際に医師に随行して、参与観察・住民側のフォローアップの聴き取り調査を行う。調査を続けると同時に、インタビュー・データの整理・分析・執筆に入る。②予防医学と当事者運動に関して、海外との比較を軸に研究を進める。5月にキングス・カレッジ・ロンドンのワークショップに招聘されており、また6月にはジョンズ・ホプキンスのジェレミー・グリーン先生を慶應に招いてシンポジウムを行うことになっており、こういった場を通じて認知症の早期発見やスクリーニング一般に関する国際比較的視点でディスカッションを深め、予防医学に関する人類学的論点を整理する。夏以降は、11月のアメリカ人類学会で企画した認知機能障害全般を比較するパネルと、東アジアにおける精神医学比較のラウンドテーブルで日本の認知症医療・政策について論じ、「健康な町づくり」に関する比較文化的視点を深めたい。後半は、3年間の研究成果の総括となる国際シンポジウムを企画し、現在執筆中の論文を完成させるとともに、日英での著書の執筆準備に入りたい。また、本研究を基盤とした今後の研究の方向性を見据え、認知症を超えより広く老いとライフサイクル全般を含めた予防医学の発展の歴史と、コミュニティを基盤とした健康づくりの在り方について国際比較研究のための分析方法を考え、国内外の学者と意見交換を行い、本研究をより広い視点からとらえなおすための視座を獲得したい。
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Causes of Carryover |
人類学と医療を架橋するという趣旨のもと3月に企画したネオジェロントロジーのシンポジウムでは、カナダからお招きしたマーガレット・ロック先生が、シンガポールでのシンポジウムと重ねて来てくださり、他にご招待した医師の方々も費用の削減にご協力くださったため、当初予定していたよりも、はるかに少額での運営が可能となった。その分を最終年度の研究費・シンポジウム開催費用に充てる予定である。
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