2016 Fiscal Year Research-status Report
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16KT0136
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
斎藤 明 日本大学, 文理学部, 教授 (90186924)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
北原 鉄朗 日本大学, 文理学部, 准教授 (00454710)
韓 東力 日本大学, 文理学部, 教授 (10365033)
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Project Period (FY) |
2016-07-19 – 2019-03-31
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Keywords | 離散モデル / グラフ / 楽曲 / 歌詞 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者は和音を適切に表現するグラフのモデルを構築し、そのグラフ理論的な性質を調べた。音階の組み合わせを、それぞれの音階を頂点とする完全グラフを辺着色したものとして表現する。その上で、和音として成立する辺着色は rainbow とよばれる着色について特定の部分グラフを含まないと仮定した。このような仮定の下で禁止部分グラフを論じた場合、H とその部分グラフ K について、十分色数の多い rainbow H-フリーなグラフが rainbow K-フリーとなることがある。一般の禁止部分グラフでは H を禁止することによってそれより小さいグラフ K が禁止されることはあり得ない。従ってこれは辺着色グラフに特有の現象である。本研究代表者はこの点に着目し分析を進め、このような現象は K がスターであり、H がその1点細分である場合に限ることを示した。 北原研究分担者は旋律の階層表現に関して研究を進めた。旋律の階層構造は木構造として自然に表現されるが、従来の研究ではその構造は音符列表現を出発点としている。しかし楽曲を聴く際に人間は必ずしも音符列を認識していない。従って階層構造の生成には音符に依存しないより高次の単位が頂点となる必要がある。このような動機に基づき北原研究分担者は研究を進め、ウェーブレット変換を用いて、音符列表現に依存しない旋律の木構造生成に成功した。 韓研究分担者は歌詞と日常文の差異をロボットを用いて調べた。自然言語を操るロボットを使い、歌詞の意味を学習するか否かについて研究を進めた。その結果日常会話を習得するロボットにも歌詞を理解することは困難であることが分かった。これ歌詞が日常文は構文解析だけでは捉えきれない差異を持つことを示唆している。韓研究分担者はこの理由として、歌詞が日常文に比べて極めて貧弱な文脈構造を持つためだと予想している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者は辺着色されたグラフの禁止部分グラフに関して、部分グラフの半順序構造が禁止部分グラフの包含関係に反転して移される特異な現象を見出し、その現象のメカニズムを完全に解明した。数理科学的な結果としては1つの問題の完全解決であり、研究開始当初の予定を大きく上回る結果である。一方和音を辺着色グラフとその禁止部分グラフで捉えることの妥当性は十分に検証できておらず、理論と現実のギャップを完全に埋め切れてはいない。 北原分担者は音符によらない単位上に旋律の木構造を構築しており、旋律の抽象化に成功している。旋律という研究単位を抽象度の高い要素に置き換えたことにより、旋律を数理的に調べる有用な道具が得られた。これは次年度以降の研究は大きく寄与する。一方旋律よりも小さい単位である和音については同様の抽象化は成功しておらず、今後の研究展開が待たれる。 韓研究分担者は、ロボットを用いた実験によって日常文と歌詞の差異が大きいことを実証した。当初歌詞の日常文との最大の差異は、倒置など日常文ではほとんど生じないような構文の頻発だと予想していたが、たとえ倒置を構文規則に組み込んだ自然言語解析を行っても、ロボットは歌詞を理解しない。これは歌詞と日常文の差異が構文解析のレベルを超えたところにあることを示しており、大きな知見である。現在韓研究分担者は両者の差異は文脈構造に起因するという仮説を立てて、研究を進めている。本年度の研究成果として着実な知見を集めている。 以上のように、各研究者が進める研究は予想を超えて大きく進展した部分とやや進展が遅い部分が混在している。ただ進展が遅い部分が研究全体に深刻な影響を与えているわけではなく、全体としては研究はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は交付申請書に記載したとおり、メロディ進行に基づく離散構造の研究に着手する。平成28年度に研究代表者が進めてきた研究は、和音に代表される静的な音の組み合わせのモデル化であり、ここには向きの概念はない。しかし楽曲は和音が進行する動的システムであり、このモデルには時系列に基づく向きがあるはずである。本研究代表者は、このような向きがある構造として有向グラフによるモデル化を導入し、そのモデルの性質を調べる。北原分担者が平成28年度に進めた旋律の階層構造は既に音符列という時系列モデルを抽象化しており、代表者は北原分担者が得た離散構造の性質を研究する。研究代表者はこの有向グラフも禁止部分グラフで規定されると考えている。しかしこれまで得られてきた無向グラフに関する禁止部分グラフの知見は、そのままでは有向グラフに適用できない。そこでまず無向グラフにおける禁止部分グラフの知見を有向グラフに適用する可能性を探る。 北原研究者は旋律の構造について得られた知見を、実際の演奏支援システムに活用する工学的な方向性を探る。旋律は最終的にはメロディ概形として表される。そこで逆にメロディ概形を与えたときにそれを楽曲として実現する演奏システムを試作する。もし成功すれば、必ずしも音楽に深い知識のない人でもメロディ概形を入力するだけで楽曲を演奏する作曲支援システムが得られる。 韓研究分担者は楽曲のメロディ進行が意味解析のレベルで歌詞に与える影響について研究を進める。まず歌詞が貧弱な文脈構造を持つという仮説を検証する。もしこの仮説が正しければ、ロボットが理解できないほど弱い文脈構造を持つ歌詞をなぜ人間が理解できるのか、その理由を探る。この理由は歌詞がメロディという付帯情報とともに認識されるためだと考えられるが、その付帯情報は離散構造として解釈されるのかを調べる。
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Causes of Carryover |
本課題研究が採択される前に北原研究分担者の海外長期出張が決まり、北原分担者の海外出張前の研究期間が予定よりも短くなった。このため主に北原研究分担者が使用する予定であった旅費の使用が減り、平成28年度は使用額が当初予定よりも減少した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
北原研究分担者は海外出張中に海外の多くの研究者と議論を交わす機会があり、平成29年度にはこれらの研究者と本研究に関して研究情報を交換するため、多くの出張を予定している。また被験者を用いた実験の比率が当初の予定より増えると予想されている。そこで今回生じた次年度使用額を旅費と謝金に使用する予定である。
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