2017 Fiscal Year Research-status Report
イネ科植物と共生するエンドファイトの新規有用菌株育種法の確立
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16KT0145
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
竹本 大吾 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (30456587)
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Project Period (FY) |
2016-07-19 – 2019-03-31
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Keywords | 植物共生糸状菌 / エンドファイト / 擬似有性生殖 |
Outline of Annual Research Achievements |
植物体内で共生的に生活している微生物はエンドファイトと総称されている。Epichloe属エンドファイトはイネ科植物の細胞間隙で生育し、共生関係を確立する糸状菌であり、植物内で様々ば生理活性物質を生成し、宿主植物に動物や昆虫による捕食の抑制、耐乾性、耐病性などの効果をもたらすことが報告されている。本研究では、Epichloe属菌のHybrid菌株を人工的に作出することで、有用なエンドファイト菌株を人工的に作出する方法の確立を目指している。 Epichloe属エンドファイトは、貧栄養培地上で頻菌糸間融合が認められる。これまでに、核をGFP標識したエンドファイトの観察により、隣り合った菌糸の融合、融合部位を介した核の移行、移行した核の融合を観察している。また、異なる薬剤耐性マーカー遺伝子を導入した2種のE. festucae菌株を対峙培養し、疑似有性生殖を介したHybrid菌株の作出に成功している。得られた5種のHybrid菌株の染色体構成をパルスフィールドゲル電気泳動で調査したところ、それぞれのHybrid菌株で、親株には見られない染色体が現れているものが見出された。これら5種のHybrid菌株のゲノムを次世代シークエンスを用いて詳細に解析したところ、それぞれのハイブリッド株の異なるゲノム領域で、ゲノムの欠損や組み替えなどが検出された。また想定外であったが、ミトコンドリアゲノムにおいても組み替えが起こっている菌株が見出された。以上の結果から、エンドファイトでは擬似有性生殖様の現象により、ランダムでダイナミックなゲノム再構築が起こっていることが示された。また、2つの親株に致死遺伝子を導入し、それらの対峙培養による擬似有性生殖の誘導と新規菌株の作出に取り組んでいる。このHybrid株の作出に成功すれば、形質転換マーカーを持たない新規菌株の人工的な作出法の確立が完了する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、人工的に有用な活性をもつエンドファイト菌株を育種する方法の確立を目指している。平成29年度は、異なる薬剤耐性マーカー遺伝子を導入した2種のE. festucae菌株から疑似有性生殖を介して作出した5種のHybrid菌株の全ゲノム配列を解析し、それぞれのHybrid株で異なるゲノム領域におけるゲノムの欠損や組み替えなどが検出された。また、ミトコンドリアゲノムにおいても組み替えが起こっている菌株を見出すなど、エンドファイトの疑似有性生殖によるゲノムの再構築の実態を明らかにすることに成功した。これまでの結果と合わせて、自然界から単離されるゲノム構造の複雑な、あるいは重複がランダムに起こっているエンドファイトの不完全菌がどのようにして出現しているのか、かなりの部分で明らかに出来たと考えている。また、本研究の1つの目標である形質転換マーカーを持たない新規菌株の人工的な作出法の確立に着手し、順調に進行しており、最終年度である平成30年度には目標を達成できる見込みである。
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Strategy for Future Research Activity |
A. 新規Hybrid菌株のゲノム構造の詳細解析 これまでにHybrid株 には高い遺伝的多様性があることが明らかとなった。しかし、親株の1つであるFl1株が全ゲノムが決定しているのに対してもう一方の親株であるE437株では、本研究で解読したショートリードの解析によるデータがあるのみで、その全体像が明らかではない。そこで、ロングリードによる配列解析で、完全長E437株ゲノム配列を決定し、その配列をもとにHybrid菌株のゲノム構造を再解析する。 B. Hybrid菌株のゲノム構造の安定性の解析 新規に作成したHybrid菌株ではゲノムの重複を含む多様なゲノム構造が認められたが、そのゲノムが培養時あるいは植物への感染時に安定して維持されるかは明らかではない。そこで、2つの親株の染色体のマーカーを作出し、Hybrid菌株のゲノムの安定性を調査する。この解析によって新規菌株が長期利用が可能であるかどうかを確認する。 C. 異種エンドファイトのHybrid菌株の作出とゲノム構造の解析 これまでに、ヤマカモジグサ由来のE. sylvaticaを得て、Fl1株とのHybrid菌株の作出を試みている。この組み合わせでも菌糸の融合が認められており、これまでに報告のない異種間の擬似有性生殖の誘導に成功したと考えられる。そこで、異種間Hybrid菌株のパルスフィールドゲル電気泳動によるゲノム構造の調査、次世代シークエンスによるゲノム配列の詳細解析を行う計画である。 D. 新規菌株の人工的な作出法の確立 既に2つの親株に致死遺伝子を導入し、それらの対峙培養による擬似有性生殖の誘導と新規菌株の作出に取り組んでいる。得られたHybrid株から致死遺伝子が取り除かれた菌株を選別することで、形質転換マーカーを持たない新規菌株の人工的な作出法を確立する。
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Research Products
(7 results)