2016 Fiscal Year Research-status Report
無農薬有機栽培の水田で地下水の硝酸性窒素汚染は減らせるか?
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16KT0151
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
一柳 錦平 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 准教授 (50371737)
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Project Period (FY) |
2016-07-19 – 2019-03-31
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Keywords | 地下水 / 硝酸性窒素 / 水田 |
Outline of Annual Research Achievements |
採択時のH28年7月末にはすでに田植えも終わり,水稲はすでに生長していた.そのため,H29年度より水稲耕作期間を通した観測を行うために,気象や水文観測に使う測器等の設計,準備を行った.水田から地下水への硝酸性窒素の負荷軽減の影響を観測するために,熊本県菊池市の山間部にある,化学肥料や農薬を使わずに自然栽培を行っている水田のオーナーにお願いして,1反くらいの水田を貸していただくことができた. 対象とする水田の近辺に気象観測測器を設置し,放射,気温,湿度,降水量,風速,風向のデータを取得できるようにした.また,水田の流量観測のために小型三角堰を設計し,水田の流入口と流出口とに三角堰を設けて,それぞれ水位計を設置した.降水をサンプリングして,水の酸素,水素安定同位体比を測定するために,蒸発防止構造を付けた降水サンプラーを作成し,水田の近辺に設置を完了した. また,H28年9月より毎月1-2回の頻度で,水源となる湧水数ヶ所や水田の灌漑水,排水を採水し,水温,pH,ECを測定した.採水した水を持ち帰り,実験室で水の酸素,水素安定同位体比,主要溶存イオン濃度の分析を行った.その結果,水源となる湧水や水田への灌漑水の硝酸性窒素は,非常に少ないことが明らかとなった. その他,当初の計画にはなかったが,地下水流動モデルの検証に利用する予定で収集した河川の水位データを解析した結果,熊本地震によってダムや農業用水の取水口が壊れたために水位が低下するなど,農業用水の水位に影響が認めらたことを明らかにした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
水田から地下水への硝酸性窒素の負荷軽減の影響を観測するため,対象とする水田での気象観測(AWS)および水文観測(小型三角堰)の準備については,当初の計画通りに進んでおり,H29年度より観測を開始することができる.また,水源となる湧水と水田への灌漑水について水質や水の安定同位体比を分析し,硝酸性窒素は非常に少ないことを確認している. しかし,熊本地震後の復旧工事による停電のため,PCのハードディスクが故障してしまい,地下水流動モデルの再インストールを行う必要が生じている.またPCだけでなく,同位体質量分析計の電源ボードやポンプ,さらに水同位体アナライザーのポンプが故障するなど,当初予期していない修理に時間と労力を取られた.そのため,化学肥料を使う水田の硝酸性窒素については,既存のモデル結果を利用することとし,水田観測は農薬や化学肥料を使わない自然農法の水田だけに集中することとした. その他,当初の計画にはなかったが,熊本地域を流れる河川の水位の変化について解析し,熊本地震によってダムや農業用水の取水口が破壊された影響を明らかにした. 以上のように,観測研究については当初の計画通り進んでいるといえるが,モデル研究が遅れていることから,総合的に判断して「やや遅れている」と判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
H29年度より,農薬や化学肥料を使わず自然栽培を行っている水田の気象,水文観測を開始して,水稲耕作期間の水収支と窒素収支を明らかにする.水田観測は,H30年度も行う予定である.水田から地下水への硝酸性窒素の負荷量を推定するために,代掻き,田植え,中干し,稲刈りなど,農耕イベントには水源となる湧水,灌漑水,土壌水,水田からの排水を採水し,硝酸性窒素を含めた主要溶存イオン,水の安定同位体比の分析を行う.その他にも,田面水や土壌水について,硝酸性窒素の酸素,窒素同位体比を分析し,窒素の起源や脱窒の有無などについても明らかにする予定である. また,熊本地域ですでに利用されている3次元地下水流動モデル(GETFLOWS)を使って,農薬や化学肥料を使わず自然栽培を行っている水田による地下水への硝酸性窒素の負荷量の軽減について評価する.具体的には,観測した硝酸性窒素濃度の入力値や水田における各種パラメータ,脱窒の有無などについて観測値を入力して計算を行い,従来の農薬や化学肥料を使っている水田との比較を行う. さらに,熊本市の地下水の主要な涵養域である白川中流域低地の水田を,農薬や化学肥料を使わず自然栽培を行っている水田に変化させた場合,熊本市内の地下水の硝酸性窒素濃度が何年後にどれだけ減少するかについて評価する.白川中流域低地だけでなく,熊本地域のすべての水田を変化させた場合など,幾つかのシナリオを想定してモデル計算を行う予定である. その他,モデルを検証するために,熊本地域の河川水の流量や水位データを収集しており,熊本地震の震源地に近い地域では農業用水への影響が認められた.今後はさらに地域を拡大して,熊本地震が地域の農業用水に及ぼす影響についても明らかにしたい.
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Causes of Carryover |
熊本地震後の復旧工事による停電のため,同位体分析機器の電源ボードやポンプ,PCのハードディスクなどが相次いで故障した.そのため,H28年度は同位体分析用の消耗品が少なかった.また,同位体分析やモデル解析に関する謝金が発生しなかった.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
地下水流動モデル用のPCおよびハードディスクの購入や,モデルを再インストールするための人件費または委託費として使用する予定である. その他にも,H28年度にできなかった水質や同位体分析の消耗品を購入する必要がある.
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