2016 Fiscal Year Research-status Report
破壊と汚染の論理:非通常兵器の使用とレントシーキング
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16KT0153
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
小浜 祥子 北海道大学, 大学院公共政策学連携研究部, 准教授 (90595670)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大槻 一統 早稲田大学, 高等研究所, 助教 (00779093)
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Project Period (FY) |
2016-07-19 – 2019-03-31
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Keywords | 地雷 / 非通常兵器 / 政治経済学 / 数理モデル / 統計分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、まず、紛争中の兵器選択に関する理論構築の前提として、紛争や兵器利用に関する文献の整理を行った。具体的には、軍事戦略の選択をめぐる理論的・実証的な研究を整理した他、紛争とレントシーキングに関する文献も収集した。さらに、兵器利用の後遺症としての健康被害、住み慣れた土地から移住といった問題への含意を探るべく、いわゆる「人間の安全保障」に関する最近の研究も収集した。 また、当初の計画に基づき、ゲーム理論を用いて兵器が使われる政治経済的なメカニズムの理論化を行った。紛争地域におけるレントシーキングに着目しつつ、どのような資源や産業構造をもつ土地が地雷のような「汚い兵器」のターゲットとなりやすいかを分析し、戦後に復興可能な財をもつ地域は破壊的戦略の被害にあいやすく、逆に石油のような復興不可能な財をもつ地域は地雷のような汚染の被害にあいやすいという結果を得た。この研究成果を研究分担者の大槻一統氏(早稲田大学)と「A Theory of Weapons Selection in War: Suffering and Recovery from Destruction, Contamination and Displacement」という共著論文にまとめ、国内で複数の報告を行い、英文学術誌への投稿を行った。 さらに、本年度は実証研究にも取り組み、カンボジア内戦中の地雷と空爆のデータを用いて、それぞれの兵器がどのような地域で利用されたかを統計的に分析した。これにより、理論の示す通り、紛争地域の資源・産業構造がそれぞれの兵器利用に強く関連していることを突き止めた。この研究成果は大槻氏、冨永靖敬氏(早稲田大学)との共著により「Bombing and Mining in War: Evidence from Cambodia」としてまとめ、国際学会で報告を行い良い評価を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、平成28年度はまず、紛争中の兵器選択に関する理論構築の前提として、紛争に関する最新の研究を随時追加しつつ関連文献の整理を行うことを計画していた。その計画通り、本年度は近年に公刊された軍事戦略の選択をめぐる研究、紛争とレントシーキングに関する文献、「人間の安全保障」に関する最近の研究を収集・整理し論文執筆に活かすことができた。 また当初の計画では、本年度はゲーム理論を用いた理論構築に集中して取り組み、第一に、どのような資源や産業構造をもつ土地が「汚い兵器」のターゲットとなりやすいか、第二に、どのような国やグループが「汚い兵器」を用いやすいか、に焦点をあてた理論の構築を目指していた。第一の点については研究成果を論文にまとめ、国内で複数の報告を行った。また、研究が順調に進展したことから、当初は本課題最終年度に予定していた英文学術誌への投稿まで進むことができた。なお、下記の通り、第一の点に関連した実証研究が順調に進行したため、第二の点については次年度以降に取り組む計画へと変更した。 さらに、当初の計画では、平成29年度から実証研究に取り組む予定であったが、理論研究が順調に進展したこと、また適当なデータを入手できたことから、本年度中にカンボジアにおける地雷と空爆の利用に関する研究に取り組んだ。研究成果もすでに論文としてまとめ、国際学会での報告を行った。 よって、一部の計画につき遂行順を変更したものの、本研究課題は当初の計画通り順調に進んでいる。また計画の変更についても、実証研究が予想以上に順調に進行した結果であり、憂慮すべきものではないと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画では、平成29年度は理論から導出された仮説を、統計分析および実験室実験を用いて実証的に分析する予定であった。その計画に基づき、適宜修正を加えつつ、下記の通り研究を遂行する。まず、平成28年度中に理論分析についての論文を一本、また当初計画では平成29年度中に予定していた統計分析を用いた実証研究を先取りして一本完成させることができたため、平成29年度はこれらを国内外の学会で報告しつつ、英文学術誌での公刊を目指して投稿作業を行う。この統計分析ではカンボジア内戦のデータを用いたが、これをいかに他の事例に適応し一般化を行うかが残された課題である。平成29年度中も、利用可能なデータなどを探しつつこの課題への対処を検討することとする。 また、平成28年度に予定していた「誰が地雷などを使用しやすいか」という研究については上記の統計分析との遂行順を入れ替えたため、平成29年度に実施することになる。まずはこの問題については理論モデルを完成させ、次いで、理論の提示するメカニズムの内的妥当性を検証するため実験室実験を行う。兵器選択は軍事機密に属するため、意思決定過程に関する情報は入手困難である。そこで兵器選択を模した実験を行い、厳重な制御環境下で被験者の意思決定を観察することで理論の提示する因果関係を厳密に検証する。例えば被験者のペアに1,000円の元手に対して時間の経過と共に利息が加算される状況の下で一方が相手の持ち分を収奪し他方が収奪に抵抗するようなゲームをプレイさせ、異なる外的刺激が収奪の方法にいかなるバリエーションを生み出すかを分析する。これについてはいかに説得力のある実験デザインを構築するか、またいかに被験者などを集めるかが大きな課題であるが、国内外の研究者からのアドバイスを得つつ遂行していく予定である。
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Causes of Carryover |
以下、研究代表者・研究分担者のそれぞれについて、 平成29年3月末に依頼した英文校正の謝金につき会計処理の都合上、3月中に予算執行が間に合わなかったため平成28年度研究費に余剰が生じた。また、理論研究の一部を次年度に遂行する計画へと変更したことに伴い、それに関連した文献、例えば核抑止や空爆に関する研究書の購入を次年度へと延期したため平成28年度研究費に余剰が生じた。(小浜) 今年度に購入予定であった物品(電子リーダー)の現行品が生産中止となり、小売店にもメーカーにも在庫が無い状況になった。その後、新しいモデルの発売が発表されたため、その購入を次年度へと延長した。また、観察データによる実証研究が想定より進んだため、その論文の完成に今年度は集中して取り組んだ。そのため、核抑止の理論研究とそれに伴う協力研究者との打ち合わせを次年度へと延長した。(大槻)
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
以下、研究代表者・研究分担者のそれぞれについて、 平成28年度に生じた残額のうち、年度内に支払われなかった英文校正にかかる経費は平成29年4月にこの分を充当して直ちに予算を執行する。また順次、核抑止や空爆に関する文献も購入して速やかに予算を執行する。(小浜) 上述の電子リーダーの新製品(6月発売予定)の購入に充当する。また、核抑止の理論研究の構築に向けた、協力研究者との打ち合わせの旅費として速やかに執行する。(大槻)
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Research Products
(5 results)