2017 Fiscal Year Research-status Report
光化学と有機金属化学の結節点における遷移状態解析と制御
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16KT0160
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中島 一成 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (10709471)
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Project Period (FY) |
2016-07-19 – 2019-03-31
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Keywords | 光誘起電子移動 / 遷移金属触媒 / 炭素-炭素結合切断反応 / クロスカップリング反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、有機合成における新たな反応手法として、可視光照射下でイリジウムやルテニウムなどの遷移金属ポリピリジル錯体を触媒とするフォトレドックス触媒反応系が注目されている。フォトレドックス触媒は、光誘起電子移動により、基質の一電子酸化と還元を鍵として基質を活性化する有用な反応手法である。なかでも、最近、フォトレドックス触媒と遷移金属触媒を組み合わせた共同触媒反応が注目を集めている。しかし、その有機合成的な価値の追求とは対照的に、反応機構に関する基礎的な研究はごく限られている。フォトレドックス-遷移金属共同触媒系の解析が困難である理由は、光化学と錯体・有機金属化学の双方のノウハウを統合して用いねばならない点にある。 他方、最近、本研究代表者らは、フォトレドックス-遷移金属共同触媒系を用いて、ハロゲン化アリールのアルキル化反応の開発に成功している。この反応では、アルキル化試薬として、ジヒドロピリジン骨格を用いており、歪みのない炭素-炭素結合を切断して進行する。そのため、この形式的なクロスカップリング反応は極めて独創性の高い反応といえる。 そこで、この反応系を中心に、光化学と錯体化学の双方のノウハウを用いて、反応の鍵となる遷移状態の解析に挑む。フォトレドックス系と遷移金属触媒系は実験手法的な隔たりも大きく、反応機構に関する研究はほとんどなされてこなかった。そこで、今回、こうした困難な研究課題に光化学と有機金属化学の両面から統合的に挑戦する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究開始当初に見出していたクロスカップリング反応は、ハロゲン化アリールとジヒドロピリジンとの反応であったが、これまでの知見を踏まえて更に、アルケニルハロゲンとの反応に展開することができた。 この反応では、クロスカップリング反応がアルケンのE-Z異性化をともなって進行するという、予想外の知見を得ることができた。こちらの反応に関しても、量子収率等の実験手法を駆使し、詳細な遷移状態の解析を行うことができた。 また、ジヒドロピリジンと光触媒とのStern-Volmerプロットにおいて、当初は一般的な動的消光が観測されるであろうとの想定のもと、実験を行った。しかし、実際には、予想外の静的消光を観測した。これは、反応活性種の発生に迫る重大な知見であるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、すでに見出した知見を基に、アルケニルハライドとのクロスカップリング反応について、その詳細な反応機構解析を行うとともに、特に、クロスカップリングとアルケンの異性化についてその関係性を明らかにする。 また、動的消光が観測されたジヒドロピリジンの系については、エネルギー移動に基づく新しい反応プロセスを提案できるのではないかと考えている。これを証明するための実験を種々行っていく。
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Research Products
(5 results)