2019 Fiscal Year Research-status Report
大腸菌と溶菌ファージとのモデル生態系による寄生から共生への移行・発展の実証的研究
Project/Area Number |
16KT0169
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
柏木 明子 弘前大学, 農学生命科学部, 准教授 (40362652)
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Project Period (FY) |
2016-07-19 – 2021-03-31
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Keywords | 大腸菌 / RNAバクテリオファージQβ / 共生 / 寄生 |
Outline of Annual Research Achievements |
新しい生物間相互作用はどのような場合にどのように生じ安定な状態へ発展するのだろうか。生物は遺伝子間、細胞間や種間等あらゆる階層で相互作用し、それらが連鎖したシステムである。そのため、新たな生物間相互作用の創生やそれが持続発展するしくみを知ることは生物を構成する自然法則に対する知見を与える。上の問いへの答えは現存の生物をそれらが経験したことがない未知の相互作用の状態に置き、そこからどう変化するのかという過程を解析する中から抽出可能だと考えられる。特に、未知の相互作用の状態に置かれた生物が増殖可能となるように系を構築する段階は、元とは異なる新たな遺伝子間や種間等の相互作用が現れる時であると考えられる。本研究は大腸菌とそれに感染する溶菌性RNAファージを用い、本来は寄生関係にある両者をそれらの増殖に互いが不可欠となる環境に置き、両者が新しい安定な状態へ発展、移行するまでの相互作用を実験科学として示し、上の問いに対する解を得ることを目的とする。 具体的には、大腸菌とそれに感染するRNAファージQβとの共生関係を合成生物学的手法で構築するため、以下の2点を明らかにした。①大腸菌に本来寄生者であるQβの存在が大腸菌の増殖に必須となる系を構築に成功した。②溶菌タンパク質が発現されないQβゲノムを持ち、且つ、感染能を有するQβ(ΔA2Qβ)の作製に成功した。 次に、上記①と②を組み合わせ、寄生関係にあるものの共生関係を作製を試みたところ、短期間においては、両者がそれぞれの機能を使いながら、増殖する、短期的な共生関係(共存関係)が得られた。しかしながら、長期間培養を試みると、Qβの存在なしに増殖可能な大腸菌変異体が確率的に出現することが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
大腸菌とそれに感染するRNAファージQβとの共生関係を合成生物学的手法で構築すること、そして、その系を複製世代にわたって継代し、大腸菌とQβのゲノム配列、内部状態を解析することを目的とした研究課題である。 以上の目的のために、下記①②を構築することに成功した。①共生関係を構築するために、大腸菌に本来寄生者であるQβの存在が大腸菌の増殖に必須となる系の構築に成功した。②Qβの溶菌タンパク質が大腸菌を死滅させてしまう。しかしながら、この溶菌タンパク質は、Qβが大腸菌に感染する際にも必要となるマルチファンクションなタンパク質である。そのため、溶菌タンパク質を相補することにより、Qβゲノムからは溶菌タンパク質が発現されないゲノムを持ち、且つ、感染能を有するQβ(ΔA2Qβ)の作製に成功した。 上記①②を組み合わせ、寄生関係にある大腸菌とQβとの共生系の構築を試みたところ、短期間であれば、両者が共存する系の構築には成功した。しかしながら、長期間培養していると、大腸菌において、Qβの存在なしにでも増殖可能な変異体が出現することが明らかとなった。そのため、研究課題の目的となる系の構築は部分的には達成されたと考えられるが、長期間培養において、両者がいかに変化するのか、を解析するためには、この変異体出現を今後抑制する必要があることも同時に明らかとなった。 上記の理由から、当初の研究目的からはやや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、上記【現在までの進捗状況】で示したように、本研究課題を遂行したことにより、変異体出現という新たな問題点が明らかになった。また、それらを抑制するためには、変異体がどのようなゲノム配列を持っているものか等を明らかにし、変異体の出現を抑制するように、大腸菌側の塩基配列をゲノム編集技術等で変えることが必要であると考えられる。
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Causes of Carryover |
大腸菌とQβファージの共生系構築が年度の後半となり、予定より半年ほどずれてしまった。そのため、得られたファージのRNA解析を次年度に繰り越す必要が生じた。
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Research Products
(8 results)