2018 Fiscal Year Research-status Report
グローバル・バリュー・チェーン革命の功罪とガバナンス体制に関する研究
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16KT0184
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
岡本 由美子 同志社大学, 政策学部, 教授 (00273805)
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Project Period (FY) |
2016-07-19 – 2021-03-31
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Keywords | グローバル・バリュー・チェーン / ロックイン効果 / 持続可能な開発 / アフリカ / フェアトレード |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、以下の2つの研究成果を挙げた。まず第一に、自由貿易に代わり登場してきたフェアトレード(FT)の理論的な根拠を明確化したことである。FTも当初は自由貿易体制そのものの変革を求める従属論に理論的根拠が置かれてきた。しかし、やがて、市場の失敗を理論的根拠に、農民がよりよい条件で取引できる手段としてFTが位置付けられるようになった。さらに、近年、新制度派経済学の理論を根拠に、自由化された市場の中で小規模農家と先進国市場を結ぶgatekeeperとしての生産者組合の役割が重要視されるようになった。新制度派経済学そのものはFTを直接擁護するものではないが、FTは他の国際認証制度にはない生産者組合の存在を前提としている。よって、FTは以前よりも、より多くの理論的根拠に支えられている。 第二に、FTの効果と今後の課題について、一定の研究成果が得られた。FTの評価には、グローバル・バリュー・チェーン(GVC)の理論的フレームワークを基にした実証研究を行った。その結果、FTは公正な条件でGVCに参入できる多くの生産者組合を生み出すことに貢献したことが明らかとなった。また、その中の1つの組合の事例研究を通し、FTの効果として、①公正貿易の拡大と収入の安定化、②社会や環境と調和のとれた生産技術の蓄積と農民への伝授、及び、③メンバー間で民主的な意思決定メカニズムが確立され組合員の中に自主性が醸成された、ことが明らかとなった。 ただし、FTにも解決すべき問題点も多く見つかった。①先進国におけるFT市場の規模の拡大が不十分であること、②最近のFT市場は国際有機認証の取得も要求する傾向にあり、途上国側に過度の費用負担が課せられること、③さらに国際有機認証の取得までに不当なまでに時間がかかり、認証制度への依存は政治的リスクに途上国をさらす可能性をより高めてしまうこと、が明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究は計画より若干早めに進行している。研究3年目の前半において、ウガンダのコーヒー産業を例にとり、グローバル・バリュー・チェーン(GVC)革命の問題点を整理し、期間を前倒しして研究4年目に行う予定であった持続可能な開発を目指す時代に合致したガバナンス体制の在り方を模索し始めた。その理由は、アフリカはアジアに比べるとより一層強くGVC革命の負の影響を受けることになり、新しいガバナンス体制の構築が喫緊の課題となりつつあるからである。 海外直接投資(FDI)を梃子に世界の工場としての役割を担うことになったアジアにおいてもロックイン効果といったGVC革命の問題点がよく指摘されるが、経済の自由化が90年代以降急速に進んだアフリカでも深刻な問題であることが研究3年目の前半までで明らかとなった。さらに、製造業が成長の主軸となったアジアとは異なりアフリカは農業の役割が依然大きく、製造業にはない農業分野特有の様々なリスクも又負っていることも明らかとなった。つまり、農業主体のアフリカはアジア以上に経済の自由化等によって急速に進展したGVC革命の悪影響を受けているのである。したがって、自由貿易に変わる、または、自由貿易の問題点を修正し得る新しいガバナンスの構築が特にアフリカでは急務であるといえる。なお、東アフリカの経済構造はウガンダのそれと類似しており、ウガンダのコーヒー産業の事例は、少なくとも東アフリカ全体について言えることであると考えられる。 これらGVC革命の問題点の解決方法として、特にここ10年から20年間、アフリカにおいても自由貿易ではないフェアトレード(FT)が推進されてきた。世界貿易機関(WTO)を頂点とする自由貿易体制とは異なる、市民社会を中心として構築されてきた新しいガバナンス体制が効果を上げ定着するのかどうか、研究3年目の後半から研究を開始している。
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Strategy for Future Research Activity |
研究4年目は、当初の研究計画通り、フェアトレード(FT)研究をより深めることで、新しいガバナンス体制構築の可能性を探る予定である。FTがグローバル・バリュー・チェーン(GVC)革命の進展によって生じている問題点をどの程度緩和し、小規模農家の持続可能な開発の促進に貢献し得るのか、探っていく予定である。 コーヒーはロブスタ種に比べるとアラビカ種の方が高品質であると一般的には考えられており、製品差別化を行う余地が大きい分FTの効果が得られやすいのではないか、という仮説を当初立てていた。しかし、研究3年目の後半に行った現地調査でその仮説が必ずしも成立しない可能性があることが明らかとなった。研究4年目は、ウガンダ東部のみならず、ロブスタ種の生産を行いながらFT活動に取り組んでいる他地域の生産者組合を訪問し、さらにその仮説の検証を深める予定である。 なお、研究3年目の時点ではFTの効果を測る手法としてインパクト評価を用いる予定であったが、研究4年目は量的・質的調査を組み合わせた従来の実証研究の方法を先行させる予定である。その理由は、FTから期待される大きな効果の1つとして生産者組合の組織能力強化への貢献があげられるが、量的側面から効果分析を行うインパクト評価のみではその貢献度の計測はできないからである。小規模農家と世界市場を結ぶgatekeeperとして役割を果たす生産者組合の存在は絶大である。したがって、本研究はインパクト評価を用いた小規模農家に対する直接的な量的な調査よりもまずは、FTが生産者組合にどのような影響を与えたのかについて探るべく、量的・質的調査を組み合わせた実証研究を先行させる予定である。
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Research Products
(1 results)