2016 Fiscal Year Research-status Report
非開始コドンから翻訳されたタンパク質バリアント中のストレスバイオマーカーの探索
Project/Area Number |
16KT0191
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小川 哲弘 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (40323480)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
角田 茂 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (80345032)
小川 智子 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 本部, 主任研究員 (90466011)
藤井 渉 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (40708161)
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Project Period (FY) |
2016-07-19 – 2019-03-31
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Keywords | ストレス / バイオマーカー / 非開始コドン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、AUG以外のコドン(非開始コドン)から翻訳されたタンパク質(タンパク質バリアント)の中から、酸化ストレスなどを検知するバイオマーカーを探索することを目的とする。近年、真核細胞において、これらタンパク質バリアントがストレスへの適応化などに関与することが示唆されている。 原核生物の中には、ストレスに際して、自身の開始tRNA量を減らして非開始コドンからの翻訳を活性化、すなわちタンパク質バリアントを合成し、ストレス抵抗性を得るものが存在する。申請者は、真核生物でも同様の機構でタンパク質バリアントが発現すると考えた。そこで、人為的に細胞内開始tRNA量を減らした培養細胞を作製し、タンパク質バリアントを恒常的に発現させることを試みた。 マウスゲノム上には開始tRNA遺伝子が10コピー存在する。このうち、配列上の違いを利用して一部の開始tRNA遺伝子を破壊出来るよう2種類のgRNA(gRNA1およびgRNA2)を設計した。これらgRNAを用いたCRISPR/Cas9法により、マウス線維芽細胞(Neuro2a)における一部の開始tRNA遺伝子の破壊を行った。条件を種々に検討し、gRNA1および2により最終的にそれぞれ22, 36クローンの細胞を得た。しかし、ほぼ全ての株で生育速度が大幅に低下していた。また大部分に形状の異常が見られ、実験に供することが困難と考えられた。近年、翻訳開始因子EIF2Aが非開始コドンからの翻訳に関わること、また、このEIF2Aは細胞分化やストレス適応に関与することが報告されている。そこで、破壊対象遺伝子を変更し、マウスC57BL/6受精卵のEIF2A遺伝子をCRISPR/Cas9法で破壊する実験を現在行っている。遺伝子破壊個体樹立を行うとともに、ここから胎児に発生させマウス線維芽細胞を得て、リボソームプロファイリングに供する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、CRISPR/Cas9法を用いることで(1)細胞内の開始tRNA量を減少させた細胞培養株(開始tRNAノックダウン細胞)を樹立すること(2)開始tRNAノックダウン細胞に対してリボソームプロファイリングを行うことで、翻訳開始点を網羅的に解析すること を実施する予定だった。しかし、細胞の生育や状態などに照らした結果、実験に供するのに適切と考えられるものが取得出来なかった。そのため、本年度の計画を達成できなかったが、その代替案として、EIF2Aノックアウト細胞の樹立を進めていることから、進捗状況を「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、EIF2Aノックアウト細胞の樹立を再優先課題とする。EIF2A依存的タンパク質バリアントは、ストレスに際して特異的に発現し、細胞応答性を示すと考えられることから、本研究において取得を目指すものと合致する。そのため、破壊対象遺伝子は、当初予定していた開始tRNA遺伝子から変更されるものの、本破壊株を用いることで研究目標は十分に達成可能である。 野生株および樹立したEIF2Aノックアウト細胞株に対してストレスを作用させた後、リボソームプロファイリングを実施する。得られた解析結果から、野生株でのみ発現するタンパク質バリアントを決定する。タンパク質バリアントは、非ストレス時も発現していると考えられるが、こうして得られたものは、ストレス特異的、かつEIF2A依存的に発現したものと考えられる。そこで、これらの中から、バイオマーカーとして適切と考えられるものを検出感度やタンパク質の物性などの面から決定する。 EIF2Aは、通常の生育には必須でないことが報告されていることから、ノックアウトはそれほど困難を伴わないと予想している。しかし、予想通り進まない場合を考慮し、培養細胞に対してRNAiによりEIF2Aをノックダウンすること、あるいは出芽酵母におけるEIF2Aノックアウト細胞を購入し、同様の実験を行うこととする。
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Causes of Carryover |
リボソームプロファイリングに供する細胞株の樹立が年度内に終えられなかった。そのため、「その他」に計上していた、リボソームプロファイリングを行う際に必要となるRNAseqの受託解析費を使用しなかった。また、「その他」に、RNAseqで得られた配列の解析に使用するソフトウエアの年間使用契約費を計上していた。しかし、RNAseqを実施しなかったため、解析を行わなかった。そのため、本ソフトウエアの本年度契約を見送った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
リボソームプロファイリングに供する細胞株を早急に樹立し、当初予定通りRNAseq受託解析費、解析用ソフトウエア契約費として使用する。
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