Research Abstract |
本研究は,脳の分節構造にしたがって発現するニューロンの機能的な分化を理解することを目指した.硬骨魚の後脳分節に発現する網様体脊髄路ニューロン群のうち,第4分節に左右一対存在するマウスナー(Mauthner,M)細胞は,聴覚入力による逃避運動を駆動することと,第5,6分節に存在しM細胞と同じ形態学的特徴をもつ相同ニューロンは触覚による逃避運動で働くことを,これまでに見出した(Kohashi and Oda, J.Neurosci.2008).聴覚入力による逃避運動は受精後80時間以降でないと現れない. 本年度は,ゼブラフィッシュが聴覚刺激に応じるようになるまでの,逃避運動の発達とM細胞の寄与を調べた.ゼブラフィッシュM細胞からin vivo whole-cell記録を行ったところ,受精後46時間で初めて音刺激に対してシナプス応答が得られ,それ以降90時間まで応答潜時の短縮とシナプス電流の増加が認められた(Tanimoto et al., J.Neurosci.2009).M細胞が聴覚入力を受けてからの逃避運動の発達とM細胞の寄与を調べた.頭部に与えた水流刺激で誘発される逃避運動は,受精後75時間までは耳胞の耳石を除去しても影響されず,三叉神経節を除去すると失われた.カルシウムイメージングから,M細胞の発火は必ず逃避運動を伴うことが示された(M-escape).M細胞が発火しなくてもあるいはM細胞を除去しても逃避運動(Non-M-escape)は起こり得るが,その潜時はM-escapeより遅い. 以上の結果から,M細胞は受精後75時間までは触覚入力によって,受精後80時間以降は聴覚入力によって発火すると考えられる.どちらの場合もM細胞が発火すれば,他のRSニューロンが駆動するよりも早く逃避運動を開始でき,発達初期のM細胞の寄与が明らかになった.
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