Research Abstract |
有機結晶は構成する分子の立体構造が規制された特異な反応場を提供するため,不斉反応,立体規則的な反応などの合成化学的な立場から幅広く研究されている.ところが,固体-固体,固体-気体,固体-液体などの不均一系反応に応用した場合や反応に大きな原子移動を伴う場合には,全く反応が進行しないか,または反応の進行に伴い結晶構造が崩れてしまう.結晶相反応は反応の選択性に優れているが,一方では反応への制限が多いことを示唆している。このジレンマを克服するために,本研究では結晶を構成する分子の挙動をエントロピー制御することで,結晶化により記録された分子情報を記憶して,このキラルメモリーを様々な高選択的反応へ展開することを目的とした. この目的を達成するために,安息香酸アミドや1-ナフトエ酸の誘導体に着目した。アミドはC(0)-Ar結合回転がラセミ化に相当する。この回転は常温で自由回転に起こるために,これらのアミドはプロキラルであるが,アミドや芳香環の置換基によっては,低温溶液中で長時間の寿命を有する。これらのプロキラルなアミドがキラル結晶化により不斉結晶を形成することを見いだした。その不斉結晶環境が低温では長時間記憶されていることをCDスペクトル測定により明らかにした.このキラルメモリー分子とジエンやアントラセン誘導体との光付加反応では高い光学純度(97%ee)での不斉付加反応に成功した。さらに,クマリンカルボン酸アミドでのキラル結晶化を見出し,これを均一系分子間光付加反応へと展開したところ,99%の不斉収率で2+2付加生成物を得ることができ.新規絶対不斉反応に成功した。
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