2005 Fiscal Year Annual Research Report
神経幹細胞の未分化性維持における転写制御シグナル群の関与の解析
Project/Area Number |
17045025
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
田賀 哲也 熊本大学, 発生医学研究センター, 教授 (40192629)
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Keywords | 神経幹細胞 / 細胞分化 / 転写制御 / シグナル伝達 / 自己複製 / アストロサイト / Wnt / β-catenin |
Research Abstract |
中枢神経系を構成する主要な細胞群であるニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトは神経幹細胞からそれぞれの特性を備えた細胞へと分化する。この分化の運命決定の過程には、多能性を維持する機構、分化の運命付け誘導の機構、運命付けの固定と維持の機構などが関わるが、とりわけ、必要な細胞を秩序立てて分化させるため枯渇することなく幹細胞が未分化性を維持したまま増殖する過程の分子機構解明は重要である。この未分化性維持の理解には、幹細胞を増殖させるシグナルと、幹細胞の分化を抑制するシグナルとの連動を考慮しなければならず、遺伝子の転写制御を含むシグナルネットワークの統合的理解が必要である。今年度は、神経幹細胞の未分化性維持機構の一端を説明し得るbFGFとWnt3aの新たなシグナル相互作用を見出した。Wntシグナルは、造血幹細胞や胚性幹細胞の未分化性維持に関わることが報告され、近年中枢神経系の発生への関与も示唆されている。マウス胎仔終脳由来神経上皮細胞をbFGFで培養することで得られる神経幹細胞画分を用いた本研究の結果から、意外にもWnt3aとbFGFの双方のシグナルがクロストークすることが明らかになった。Wnt3aによりWntカノニカル経路が活性化されるとGSK3βのキナーゼ活性が抑制されることが知られている。神経幹細胞画分にbFGFを添加するとPI_3 kinase (PI_3K)-Akt経路を介してGSK3βのSerine9がリン酸化されることでGSK3βの活性が抑制され、結果的にWnt3aシグナルの下流標的であるβ-cateninの核への蓄積と、細胞周期制御因子CyclinD1の発現促進に至ることがわかった。さらに、Wnt3aとbFGFのシグナルクロストークにより発現するcyclinD1を神経幹細胞画分に強制発現させると、アストロサイト分化が抑制されることがわかった。これらの結果は細胞増殖と分化抑制が連動していることを示す点で大変興味深い。
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