Research Abstract |
高等真核生物には,外界からの刺激に対応して行動を決定する応答システムが備わっており,生命の維持に必須となっている.視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚からなる五感が,それである.このうち,視覚・聴覚・触覚(圧覚・温覚)は物理刺激の受容であり,嗅覚・味覚は化学刺激の受容である.一方,刺激を電気シグナルに変換する仕組みから考えると,視覚・嗅覚・味覚(甘・苦・旨味)受容体は,三量体型Gタンパク質と共役して,これがホスホリパーゼCを活性化し,生成したイノシトール三リン酸(IP3)により,小胞体のIP3受容体が活性化され,小胞体中のCa^<2+>イオンが細胞質に放出されて膜が脱分極する.これに対し,聴覚・圧覚・温覚および味覚の一部(酸・塩味)では,受容体が直接イオンチャネルとして働き,Ca^<2+>イオンなどの陽イオンの細胞内への流入を引き起こし,膜の脱分極を生ずる.本研究では,刺激による受容体の活性化メカニズムを原子分解能レベルで明らかにすることを目的として,感覚受容体のX線結晶構造解析を行なう.具体的には,味覚受容体として,甘味受容体T1R2/T1R3と旨味受容体T1R1/T1R3を,温冷感受容体として,TRPM8とTRPV1を,また,嗅覚受容体として,オクタノールを認識するI7,ライラールを認識するMOR23,ユーゲノールを認識するEG,エチルバニリンを認識するEV受容体をターゲットとした.さらに,嗅覚受容体と関連して,ラットで発見されたフェロモン受容体V2R2もターゲットの一つとして追加した.Gタンパク質共役型受容体については,リガンド結合に働く細胞外ドメインを,また,チャネル型受容体については,受容体全長および細胞内ドメインの大量発現を試みた.ほとんどの場合において,発現は困難であったが,昆虫細胞をつかった発現系を用いて,rat V2R2受容体の細胞外ドメインの発現と分泌を確認することができた.今後は,rat V2R2受容体の細胞外ドメインおよびmouse TRPM8について,発現条件の検討を行ない,結晶構造解析に適する試料調製法を確立する. 尚、本課題において東京工業大学大学院生命理工学研究科・助手、沼田倫征(研究者番号10401564)にタンパク質のX線結晶解析用務で理化学研究所に、研究協力出張を依頼した。
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