Research Abstract |
以前,われわれはG蛋白質Rhoの標的分子でFormin蛋白質の1つmDia1が,細胞内アクチン重合端に結合し,線維伸長に従い移動することを分子可視化によって発見した(Science, 2004).本研究では,予想外にもlatrunculin Bなど単量体アクチン阻害剤によってmDia1の分子移動が細胞内で高頻度惹起されることを見出した.薬物動態シミュレーションにより,薬から遊離したアクチン単量体が急上昇する逆説的薬物作用がこの現象を引起こすことが判明した.関連して,アクチン脱重合因子コフィリンの捕因子AIP1が細胞内で集積する部位に一致して,mDia1によるアクチン重合の亢進が確認された.これらの結果から、線維崩壊によって生じた単量体アクチンの濃度不均一性がmDia1を活性化する「フィードバック線維回生機構」を提唱した.その後の研究により、細胞が物理ストレスを受けた際にこの機構が働き,線維再生に貢献することを見出し,現在その詳細について解析を進めている.また,線維芽細胞の増殖因子への走化性におけるRhoファミリーG蛋白質の役割について網羅的解析を行い,Rac1, Cdc42, RhoGによる協調的な細胞遊走,特にその速度への制御を見出した.また,関連してAIP1が介在するアクチン線維切断が,細胞先導端の仮足においてArp2/3複合体によるアクチン重合核形成の15倍の頻度で起きることを分子可視化によって結論づけた.更に,プロトオンコジーンab1キナーゼが慢性骨髄性白血病の分子標的薬が結合することでコンフォメーションが変化し、それが細胞先導端でのシグナル分子との複合体形成を促進することも見出した.これら一連の成果によって,細胞運動の方向性を決める,G蛋白質を中心とした細胞シグナルを明らかにし,それを受けたアクチン細胞骨格システムの可塑性と組み換えを制御する分子機構の動態を直接捉えることに成功した。
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