2006 Fiscal Year Annual Research Report
中近世東アジア貨幣史の特殊性・共時性とその貨幣論的含意
Project/Area Number |
17083007
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
黒田 明伸 東京大学, 東洋文化研究所, 教授 (70186542)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岸本 美緒 東京大学, 大学院人文社会系研究科, 教授 (80126135)
安冨 歩 東京大学, 大学院情報学環, 助教授 (20239768)
桜井 英治 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教授 (80215681)
須川 英徳 横浜国立大学, 教育人間科学部, 教授 (80272798)
櫻木 晋一 下関市立大学, 経済学部, 教授 (00259681)
|
Keywords | 貨幣間の補完性 / 日本近世貨幣史 / 高額面銅貨 / 手形取引 / 新安沖沈船 / 多元的理解 / 東アジア / 小額貨幣 |
Research Abstract |
本研究は、第一に、東アジア各国の貨幣に関わる史実を共時的かつ比較的に明らかにし、第二に、古銭学、考古学的知見から物質資料調査を深め、第三に、それらを世界史全体に連関させ、史実に即した貨幣理論を展望することを目的としている。 昨年度が日本中世に重きをおいたのをうけて、今年度は日本近世貨幣史に重点を移した。第5,6,7回の研究会では、銭遣いから米遣いへの傾斜にみられるような中世から近世への変化においての国際的契機の重要性、高額面銅貨が受領されはじめるなどの18世紀後半からの地方市場での貨幣使用の変化とそれと並行する手形取引の深化などが浮き彫りになった。同時に、朝鮮、ベトナムの銅銭流通についての報告もあり、東アジア内の差異をあらためて確認できた。 東アジアの貨幣流通の共時性を客観的に確かめるものとして、14世紀の韓国新安沖沈船からの引き上げ中国銭に着目してきたが、一部とはいえその銭文分布を調査することができたのは大きな前進といえる。櫻木の欧州所蔵東アジア貨幣調査と安冨の華北市場農村市場での社会関係調査は継続進行中である。また上海の金融業者に関する一次史料調査が黒田により開始された。 今年度もっとも進展があったのは、高額貨幣と小額貨幣の間のような、複数貨幣の間の補完的関係を、アジアを中心とした世界的規模で確認し、「悪貨が良貨を駆逐する」というような貨幣間の代替的関係を自明にしてきた理論が史実にあてはまらないことを明らかにしたことである。海外9カ国から貨幣史研究の専門家を集めた第4回の研究会と、それをうけて黒田が部会を主催した8月のヘルシンキでの第14回国際経済史学会では、貨幣間の補完性という概念の重要性が経済史研究者の間で確認され、さらに12月のパリでのワークショップにおけるように、金融論を専門とする経済学者からも貨幣と市場を多元的に理解する新しい視角としての有効性を認知されつつある。
|