Research Abstract |
高等植物は,発生の過程や感染防御の過程で一部の細胞を死に至らせる能力を備えている.この植物の細胞死のシステムは動物のシステムとは大きく異なる.本研究では,液胞を主体とする細胞死の分子機構を明らかにすることを目的としている.本年度は,シロイヌナズナの4つのVPEホモログのすべてを欠損する4重変異体において,葉の老化が遅れることを見出し,VPEを中心とする液胞プロセシング系が組織の老化に関与していることを示すことができた(論文準備中).このVPE null変異体の解析から,VPEが複数の液胞タンパク質のターンオーバーを制御していることが判明した.また,私たちが作製したVPEノックアウトマウスを用いた共同研究の結果,VPE/AEPが神経細胞のDNaseのインヒビターSETを分解することにより神経の細胞死を引き起こすことが示された(Mol. Cell, 2008).植物と動物の両方のVPE null変異体の解析から,両者を比較しつつ研究を進めている.一方,病原菌感染による過敏感細胞死において,液胞タンパク質の選別輸送系がリンクしていることを昨年度明らかにしたが,この結果を受けて,今年度は独自に作製した「液胞選別輸送異常を示す変異体プール」の中から,菌感染後に過敏感細胞死が起こらない変異体を2つ単離した.現在,この変異の原因となる遺伝子の単離を行っている.この正遺伝的アプローチと同時に菌感染による細胞内膜系の動態を観察するという細胞生物学的解析も行った.その結果,菌感染後3時間で液胞膜が原形質膜と融合することを見出した.これまで液胞膜と原形質膜との融合という現象は全く知られていないことから,今後も詳細な解析を継続する.この発見は,ウイルス感染による液胞膜の崩壊とは対照的であるという点からも興味深い.
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