Research Abstract |
我々は,新しく開発した免疫不全マウス(IL-2Rg-null NOD/SCIDマウス: Blood 106,2005)の系を用いて,ヒトの免疫システムの分化過程を詳細に調べ,幹細胞から免疫・造血システムを再構築する技術を確立・整備した.現在,リンパ系腫瘍性幹細胞:慢性リンパ性白血病,悪性リンパ腫幹細胞の純化,および純化した細胞の遺伝子発現を調べることによって腫瘍化に関わる重要な遺伝子の同定を試みている.本年度は慢性リンパ性白血病(CLL)の幹細胞分画を絞り込むことに成功した.我々の解析した15症例全例において,末梢血中のCLL細胞集団内でpro-B/pre-Bに相当する未分化なB前駆細胞が増加していた.ところがその分画による腫瘍の生着は認められず,より上流の骨髄CD34^+CD38^-幹細胞分画を10^3個レベルで移植したところ,正常造血では認められない,CLLに特徴的なヒトCD5^+19^+細胞の増殖をマウス内に認めた.この細胞集団は,患者由来CLLと同一のIgH遺伝子再構成パターンを示した.以上の結果よりCLL幹細胞は,当初想定していたpro-B/pre-B分画よりも,さらに上流の造血幹細胞レベルにあることが明らかとなった.悪性リンパ腫症例についても同様の解析を進め,同様の未熟なB細胞集団を認めており,悪性リンパ腫の腫瘍性幹細胞の候補分画と考えている.また.白血病幹細胞分画候補において,白血病幹細胞化を獲得するのに重要な増殖能・自己複製能獲得に関与する遺伝子群を抽出している.我々は,抗アポトーシス蛋白bcl-2ファミリーの中でMcl-1が,白血病幹細胞分画において有意に高発現していることを発見した.Mcl-1の発現制御はFLT3シグナルを介していた.AMLの予後不良因子の一つとしてFLT3のinternal tandem duplication(ITD)異常が報告され,FLT3/ITD変異により恒常的にFLT3シグナルが活性化されることがFLT3/ITD変異AMLの発症原因と考えられている.そこで,FLT3/ITD変異AML症例でMcl-1の発現を検討したところ,FLT3/ITD陰性AMLと比較して有意にMcl-1の高発現を認めた.今後検体数を集積し,FLT3シグナルからの細胞内刺激伝達系(Srcファミリー/STATなど)とMcl-1との関与について検討する予定である.さらに遺伝子プロファイリングを継続し白血病幹細胞が使用している増殖および分化抑制メカニズムを明らかにする予定である.
|