Research Abstract |
近年,ステロイドホルモンが認知,記憶など脳の高次機能の維持や虚血性脳疾患からの回復に重要な役割を果たしていることが明らかになりつつあり,この作用は保護作用と呼ばれている。保護作用の詳細は明らかではないが,神経細胞死の抑制,脳内に存在する幹細胞からの神経細胞の増殖,再生などの関与が想定されている。我々は,ステロイドの保護作用は幾つかの成長因子の遺伝子発現を介すること,さらにその中には我々が同定した脳の性分化関連遺伝子(グラニュリン)が含まれることを見出した。本研究はステロイドと成長因子の共役による神経細胞の分化と再生の神経生物学的基盤を確立し,高齢の動物やヒトにおける脳機能の維持,回復のための方法論を構築することを目的としたものである。最近,グラニュリン遺伝子の変異が前頭側頭型認知症の原因であることが報告されたことから,本年度には,グラニュリン,ノックアウトマウス(KO)を用いて各種の表現型の解析を主に行った。その結果,雄グラニュリンKOマウスにおける海馬歯状回の細胞増殖はむしろ亢進していることが明らかとなった。この結果は,我々の従来の雌ラットを用いて得られたグラニュリンの細胞増殖に対する作用に関する知見とは逆の結果であったが,雄マウスにおけるアンドロジェンの存在などの内分泌環境の違いが細胞増殖を抑制する分子種のグラニュリンを分泌させた可能性が考えられた。次に,空間学習試験では6ケ月齢のKOマウスでは学習能力の向上が見られたが,18ケ月齢のKOマウスでは低下していた。以上より,グラニュリンKOマウスでは細胞の増殖や生存が促進されることによって新生神経細胞数が増加しており,空間学習能力が高い傾向にあると考えられた。しかし,18ケ月齢のグラニュリンKOマウスでは空間学習能力の低下が見られ,老齢期の脳の高次機能の維持にグラニュリンが関与していることが示唆された。
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