Research Abstract |
本年度は,(財)高輝度光科学研究センターの共同研究員として,播磨SPring-8放射光施設を使用し,各種疎水性リガンド(ビリベルジン,ビリルビンおよびレチノイン酸等)とL-PGDS複合体について,X線溶液散乱法を用いた構造解析を行ってきた.その結果,実験に用いたリガンドの種類(大きさ)によるL-PGDSの慣性半径の変化が認められ,L-PGDSは結合するリガンドの大きさによってその構造を変化させる珍しい蛋白質であることが判明した.一方,L-PGDSと疎水性リガンドとの結合親和性を調べるために,L-PGDS内因性トリプトファン蛍光消光作用の測定を行った。計算により求められた解離定数(K_d)は,70〜150nMを示し,各リガンドともL-PGDSに対して,ほぼ同程度の結合親和性を示すことが判明した.以上の結果から,L-PGDSは驚くべき構造的柔軟性を有しており,他の同属分子にはない疎水性リガンドに対する「broad selectivity(非選択性)」を持っているということが判明した.そしてこの非選択性こそが「テーラメード・マイクロキャリア蛋白質」の設計・作製,および臨床応用化のための必須事項であることを報告した(2005年6月,The 30th FEBS Congress-9th IUBMB Conference, Budapest, Hungary).以上の結果は,L-PGDSが非選択的に疎水性リガンドをトラップし,輸送する能力を持ち合わせ,かつ非常に安定な蛋白質であることの証明である.さらに,現在,実際に臨床で用いられている疎水性薬剤(抗不安剤:ジアゼパム)と:L-PGDSの複合体を作製し,マウス脳室内投与による行動パターンの変化の測定により,薬剤効果を調べ,L-PGDSを用いたドラッグデリバリーシステムの有効性を評価するための実験をセットアップしている.
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