Research Abstract |
1)研究分担者の原田らが測定に成功した,グラファイトの共鳴X線発光スペクトルの実験結果について,これまで行ってきたクラスターモデルを更に拡張し,励起電子が結晶全体を遍歴する効果を取り入れたモデルによって,理論的解析を行った。とくに,内殻励起子が強く束縛されることを前提にしたクラスターモデルでは,再現することができなかった,連続的バンド端への励起下における原子移動緩和現象を明らかにすることに成功した。この結果は,現在論文投稿準備中である。 2)萱沼・田中らは,高エネルギー励起による光電子放出過程における反跳効果を,理化学研究所の高田らの実験結果をもとに発見した。高田らは,グラファイトのCls内殻電子の光電子スペクトルが,数千eVのX線によって励起すると,ピークがシフトし,スペクトル幅が広がることを観測した。萱沼は,この現象が光電子の反跳効果によるものであることを予測し,田中らとともに,モデル計算を行い,この実験結果が,高エネルギー励起による光電子の反跳効果であることを確認した。この実験と理論解析結果は,現在論文投稿準備中である。 3)原田は,水の01s内殻共鳴X線発光スペクトルの実験を行い,ダイヤモンドやグラファイトの場合と同様に,弾性散乱線の低エネルギー側に裾構造が現れることを観測した。これまで,炭素からなる軽元素共有結合半導体のみで観測されていた,内殻励起によって生じる大きな原子移動現象が,軽元素物質一般で生じる現象であることを指摘している。これらの実験結果について,現在更に詳細な検討を進めている。 4)田中は,孤立不純物状態が連続的電子状態と混成相互作用する系について,不純物準位の崩壊過程を理論的に考察した。とくに,1次元系においては,崩壊過程における非マルコフ型緩和が顕著になり,この現象は,不純物原子の内殻吸収スペクトルに良く反映することを明らかにした。この結果は,Physical Review Bに公表される予定である。
|