2006 Fiscal Year Annual Research Report
内殻励起により誘起される原子移動緩和現象の理論とX線分光学
Project/Area Number |
17340097
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
田中 智 大阪府立大学, 理学研究科, 教授 (80236588)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
萱沼 洋輔 大阪府立大学, 工学研究科, 教授 (80124569)
魚住 孝幸 大阪府立大学, 工学研究科, 講師 (80295724)
原田 慈久 理化学研究時, 量子電子材料研究チーム, 連携研究員 (70333317)
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Keywords | 軟X線共鳴発光 / 緩和過程 / 非断熱遷移 / 超高速過程 |
Research Abstract |
1)萱沼は、グラファイトにおける内殻励起子発光のダイナミクスを、クラスターモデルを励起電子の遍歴性を取り込んで拡張した新しいモデルにより解析した。数値計算の結果、これまでのクラスターモデルでは説明の出来なかったX線吸収スペクトルの構造や、発光スペクトルの励起エネルギー依存性などの測定結果を良く再現することに成功した。この結果、グラファイトの1s内殻励起子状態では、内殻正孔の寿命内で強い格子緩和と電子の量子拡散を伴う再配置とが競合して起きているという描像が確立した。 2)魚住は,3d遷移金属化合物を対象とする内殻X線分光学の理論解析において,従来用いられてきた一不純物模型の拡張に関する研究を行なった,二不純物クラスタ模型をCoMnO3に適用して,Co, MnのL吸収端における磁気円二色性を説明し,軌道強磁性発現の微視的機構を提唱した.そこでは,Co, Mn間のd-d混成相互作用,多重項相互作用,および結晶歪みの競合によって生じるCo, Mnスピン間の反強的相関が重要である.この業績は,平成18年秋の物理学会,および仏独科学共同プログラム(PICS)シンポジウム(平成18年11月6-7日,ストラスブールIPCMS研究所)において口頭発表し,現在Physical Review Letter誌に投稿準備中である. 3)DNA塩基および塩基に糖と燐酸がついたヌクレオチドダイマーのNls内殻励起共鳴X線発光スペクトルの詳細な実験を行い、価電子発光および再結合発光の励起エネルギー依存性を観察した。その結果、塩基とヌクレオチドダイマーでは励起電子の局在性の違いを反映して異なる大きさの原子移動が起きていること、またこれがグアニンとシトシンに特有の六員環中の窒素原子の糖-燐酸結合に伴う電子状態の局在化に対応していることを示した。 4)田中は、低次元系における特異な非平衡状態緩和過程のダイナミクスの研究を行った。電子系の崩壊過程に対しては、等価な2不純物準位を含む1次元量子細線における電子移動減少を理論的に明らかにし、とくに、量子的干渉効果により、不純物準位が連続状態中に存在するにもかかわらず、崩壊しない定常状態が出現することを明らかにした。この減少は、フォン・ノイマンとウィグナーらが提唱した連続状態中の束縛状態(Bound state In Continuum : BIC)の低次元電子系における具現化であることを明らかにした。さらに、電子格子相互作用系において、1次元運動を行う自由粒子が結晶フォノンとランダムな散乱を行うにもかかわらず、量子的粒子の波束の形を保持する伝搬過程(巨視的量子音波)が出現することを理論的に発見した。これらの成果は、物理学会において発表し、また、平成18年6月における国際会議において発表する予定である。
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