2008 Fiscal Year Annual Research Report
歯の微小摩耗痕および安定同位体と微量元素に基づいた束柱類の食性復元
Project/Area Number |
17340156
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Research Institution | National Museum of Nature and Science, Tokyo |
Principal Investigator |
甲能 直樹 National Museum of Nature and Science, Tokyo, 地学研究部, 研究主幹 (20250136)
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Keywords | 束柱類 / 食性 / 微小磨耗痕 / 安定同位体 / 微量元素 |
Research Abstract |
本研究は,後期漸新世〜中期中新世にかけての北太平洋沿岸だけに生息した束柱類(デスモスチルスとパレオパラドキシアの仲間)の頭蓋と下顎骨および多数の歯を材料に用いて,(1)咀嚼系の形態機能学に基づいた索餌行動の復元に加えて,(2)歯の表面に残された微傷摩耗痕に基づいて咀嚼運動の推定を行ない,さらに(3)歯のエナメル質の酸素・炭素それぞれの安定同位体比から生息環境と索餌対象を推定し,併せて(4)食物連鎖の中での栄養段階の指標となるストロンチウムなどの微量元素を分析することで,束柱類の食性,ひいては生活史について回答を得ることを目的としている. 最終年度である本年度は,束柱類の中でもとくに形態的特異性の著しいデスモスチルスについて,咀嚼系の形態に基づく機能復元を定量的・定性的に行ない,昨年度に得た結論のひとつである吸引索餌行動のモデル化を行なった.また,超深度形状測定顕微鏡により,歯の咬合面のテクスチャーの類型化を行なった.そして,炭素と酸素の安定同位体比についても,新たな試料を加えて分析結果を追加し,さらに定量的な解析を行なった.以上の結果,束柱類のうち少なくともデスモスチルスは,舌の前後運動による吸引によって索餌を行なうことに伴って,咀嚼系が本来の「咀嚼」の役割を失って,索餌の際の吸引(陰圧)に抗して下顎(口腔)を強靭に固定する支柱の役割へと機能の転換が起ったことが示唆された.このことは,微小磨耗痕が特定の食性と対応したパターンを示さないことや,歯の形態が顎の固定のための「噛み締め」に抗するような円柱状(支柱状)に進化した機構をよく説明できることからも強く支持される.したがって,デスモスチルスはこの時代の生態的地位として該当する動物が想定されていなかった,底生無脊椎動物,を主とした動物食〜雑食に適応した海生哺乳類だったことが明らかになった.
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