Research Abstract |
申請者は最近、4員環が縮環した特異な格子状構造を持ちC2対称回転軸を有するケイ素-ケイ素二重結合化学種(ジシレン1、正式名:2,3,4,6,7,8,2',3',4',6',7',8'-dodeca-tert-butyl[5,5']bi{1,5-disilatricyclo-[4.2.0.0^<1,4>]octylidene}-2,7,2',7'-tetraene)の一容器内における簡便な合成に成功した。1はこれまで得られたジシレンの中で最も化学的に安定なものの一つであり、短時間なら空気中でも安定である。 1は室温溶液中で、対応するシリレン2(正式名:2,3,4,6,7,8-hexa-tert-butyl-1,5-disilatricyclo[4.2.0.0^<1,4>]octa-2,7-diene-5,5-diyl)との解離平衡にあるが、平衡は1の側に大きく偏っており、通常の条件下では2を観測することは出来ない。しかし、1の溶液にアルコール類やアセチレン類を加えるとゆっくりと反応し、それぞれ2との付加生成物を定量的与える。1はdl体であり、その可能な異性体であるmeso体は全く得られない。これは立体障害のためである。 ジシレン1の解離反応は可視光照射下で促進されるが、発生するシリレン2の再結合も非常に早く、定量的に1を再生する。しかし、レーザー分光法を用いて2の過渡吸収を測定したところ、764nmに吸収極大を示した。この値はシリレンとしては非常に低エネルギーであるが、その原因を時間依存密度汎関数法(TD-DFT法)を用いた理論計算により検討した。モデル化合物やこれまで報告されているシリレンとの比較を系統的に行った結果、4員環シリレンにおける環状σ電子系の形成がシリレンの最高占有軌道(HOMO、ケイ素上の非共有電子対型の軌道)の不安化を引き起こしていることが分かった。環状構造の最低不占軌道(LUMO、ケイ素上の空のp軌道)への影響は少ない。 また、ジシレン1は溶液中でニトリルオキシドと反応し、対応するシラノンを経由して1,3-dioxa-2,4-disiletane誘導体を与えることが分かった。
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