Research Abstract |
純粋な有機物だけからなる強磁性体(磁石)は13年前に日本の研究グループによって発見された.これは,不対電子を一つ持つ安定ラジカル(スピン量子数S=1/2)の結晶であり,すべてのスピンが同じ方向に揃うものであった.古くから知られている磁性体のもう一つのタイプとしてフェリ磁性体である.これは,大きさの異なる2種類のスピン(例えばスピン量子数S=1とS=1/2)が互いに逆向きにそろい,その差し引き分のスピンによって巨視的な磁化が現れるものであるが,重金属を含まない有機物質ではまだ合成されておらず,長年のマテリアルチャレンジとされてきた.本研究では,新しい分子設計・結晶設計に基づいた物質開発を行ない,未踏の純有機フェリ磁性体を実現することを目標とする.すなわち,有機酸・有機塩基にそれぞれスピン量子数Sの異なる安定ラジカルを導入して,カチオン・アニオン間の静電力を利用したヘテロスピン分子集合系を構築する.初年度(平成17年度)は,S=1のスピンを担うビラジカルとして,ピリジンの2,6位または3,5位をニトロニルニトロキシドおよびイミノニトロキシドで置換した中性前駆体ラジカルおよびそのカチオン種(閉殻アニオンとの塩)を合成した.さらに,分子内のスピン-スピン交換相互作用を明らかにするために,ビラジカルの中性種とカチオン塩をPVC(ポリ塩化ビニル)フィルム中に分散させた固相希釈試料を調製し,それらの磁化率を測定した(液体ヘリウム(^4He)を用いた低温領域.SQUID磁束計による.).磁化率の解析から,合成したピリジン誘導体はすべて基底三重項であり,分子内の強磁性的交換相互作用は,イオン電荷を注入しても変わらないことがわかった.これらの中性およびカチオン種は,イオン電荷によるヘテロスピン分子集合化による有機フェリ磁性体の構成要素になり得ることが明らかになった.(793字)
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