Research Abstract |
急速なバイオ・ナノテクノロジーの進展によって,特定のたんぱく質や酵素が大量精製可能になり,さらには,望みの塩基配列をしたDNA断片(長さ10〜30nm)が自由に合成できるようになった.また,DNAの相補性,自己複製能,熱変性能,構造転換機能を有効に利用し,そのナノ構造体およびナノ機械を創製する研究が黎明期にある.たんぱく質やDNA,いわゆる,生体高分子の「特殊機能材料」としての上記特性が水溶液中でのみ発現するため,これらを時間および温度に強く依存するダイナミカル流動システムとしてとらえ,生命科学における理論流体力学的研究のブレークスルーを図ることが本研究の目標である.初年度は,研究の第一歩として,活性化ラジカルによるDNA崩壊の量子化学解析によって基礎的知見を得て,DNAの塩基対を介した電気伝導特性に関するポーラロン解析モデルを構築し,そのダイナミクスや温度依存性に関する具体的な数値計算と実験事実との対比によって,理論モデルの妥当性を確認することができた.これらの成果,とくに,「電子衝突によるDNAらせん崩壊の量子力学的アプローチ」の論文で報告者らは,日本シミュレーション学会論文賞を受賞した.また,Poly(dA)・Poly(dT)人工DNAを用い,マイカ基板上に自己組織化したDNAネットワーク構造を原子間力顕微鏡で詳細に観察し,その性状について2次元および3次元のフラクタル解析を試み,その定量化に成功した.現在,この自己組織化流動現象のダイナミクスを解明するためシミュレーションモデルの開発を行っている.さらに,この間,大阪大学で教授職を得ることができたため,東北大学からコンピュータシステムや実験装置移転,赴任先での再設置に尽力した.高真空下でDNAネットワークの詳細観察が可能になるように環境型プローブ顕微鏡ユニットを導入し,現在,装置の立ち上げと予備実験を行っている.
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