Research Abstract |
本年は,研究課題の最初の年であり,フッ化処理によって形成されるマグネシウムフッ化物の基礎的な知見を得た.まず,従来の研究により,比較的実績のあるNaBF_4を溶融させてマグネシウム合金の表面のフッ化物被覆を行った.まず,従来は723Kで溶融させた中に浸漬していたが,この温度を低下させることを試みた.その結果,673〜723Kでもフッ化処理が可能であることが判明した.また,純マグネシウム(3N-Mg),およびマグネシウム合金のAZ31B,AZ91Dあるいは,Caを添加したAM60合金などでもフッ化処理が可能であることを明らかにした.ただし,これら合金種の間で,耐食性には差が生じた.耐食性の評価は,0.1NのHNO_3溶液に浸漬し,気泡が発生するまでに要する時間とした.その結果,3N-Mgでは1.2ksで気泡が生じたが,AZ91E合金では3.0ksまで気泡発生は抑制された.Mg-Zn-Al系に限れば,AZ91E合金に次いでAZ61合金,その次にAZ31合金の順に耐食性は低下したが,AZ31合金は3N-Mgよりは高い耐食性を示した.この結果だけを見れば,Al濃度が高いほど耐食性は向上するようであるが,その原因として,フッ化物層を構成する化合物相としてAlを含むものが形成されていることが考えられるがX線回折では,MgF_2とNaMgF_3のみが検出された.また,Caを含むAM60合金の耐食性は,AZ31合金よりやや高いという結果となった.これもまたCaを含む化合物が形成されたためと思われる.これら推測に基づき,SPring-8の兵庫県有ビームライン(BL-24XU)において,放射光回折測定を行った. しかし,S/N比の高い放射光回折においても,MgF_2とNaMgF_3以外の化合物による回折ピークは検出されなかった.この結果は,上記Alの影響と相反するように思われるが,単純な回折測定では,フッ化物層と基板の間の反応層は検出されないと考えられる他,非晶質を形成している場合にも検出され難い.引き続き,SPring-8における測定を行う. 一方,フッ化物層の硬度は高く,緻密であるため,磨耗特性が改善される可能性がある.そこで,ボールオンディスク方式の回転磨耗試験機により,摩擦係数を測定した.その結果,荷重0.98N,回転速度20rpm,回転半径6mmの条件下で,試験開始から1800回転までフッ化物層は破壊されなかった.摩擦係数は初期には,0.13程度であるが磨耗試験の進行とともに低下し,約0.05で安定となった.フッ化物層の無い試料では,試験開始直後から0.3程度で激しく上下した. 上に述べたように,フッ化処理をほどこすことにより,マグネシウム合金の耐食性ならびに耐磨耗特性は著しく向上することが明らかとなった.
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