Research Abstract |
本年は,(1)これまでに当研究グループが提案してきたマグネシウム合金の耐食性改善手法のうち,高純度マグネシウム被覆法とフッ化物被覆法を重畳させて表面改質を試みたこと,および(2)フッ化物皮膜の微細組織を詳細に観察/分析したこと,の2点で進展があった. (1)については,SPring-8において,側傾法により残留応力測定を行った結果,高純度Mg中間層のない試料で171MPa,高純度中間層のある試料で125MPaの圧縮残留応力があることがわかった.すなわち,高純度Mg層を中間層とすることにより,応力緩衝効果があり,残留応力を低下させていることが明らかとなった.また,0.02NのHC1水溶液中に浸漬して,水素気泡発生までの時間を測定したところ,高純度Mg中間層の無い試料では,浸漬後0.2ksで気泡発生が見られたが,高純度Mg中間層をもつ試料では0.5ksまで抑制でき,高純度Mg層を形成することにより,耐食性が改善されることが示された.この浸漬試験後,SEM-EDSにより,水素気泡の発生箇所の分析を行った結果,高純度Mg中間層の無い試料ではAl-Mn系の介在物が確認されたのに対し,中間層を形成した試料では,Mg以外の元素は検出されなかった. (2)上記結果が示すところは,フッ化物処理の下地として,高純度Mg層を形成させておくことにより,不純物起因の介在物を起点とする腐食開始を防ぐことが可能であるということである.しかし,高純度Mg層を有する試料においても,開始までの時間は長くなるものの,いずれ腐食が始まる.この事実は,フッ化物皮膜に耐酸性が無いか,あるいは皮膜中になんらかの欠陥が存在し,基板が直接腐食性溶液に接するか,のいずれかによる.これを確証するため,および,フッ化物皮膜の微細組織を明かにするために,フッ化物処理を施した試料を,塩酸:メタノール=1:2溶液に浸漬してみた.その結果,基板のマグネシウム合金は完全に溶解し,フッ化物皮膜が溶液中に残留した.これをメッシュにすくいとって,TEM試料とし,観察/電子線回折の解析を行った.得られたTEM像には,1μm程度の暗いコントラストの結晶粒が多数見られ,その中に,同程度の寸法の明るいコントラストの結晶粒が散在している状況が見られるだけであり,クラック,穴などの欠陥は観察されなかった.すなわち,フッ化物皮膜自体は,33%HCl水溶液にも耐えるだけの耐酸性を有している.しかし,おそらく微細な欠陥を含むため,溶液の侵入を完全には防ぎえず,腐食が開始するもとの思われる.TEM観察可能な範囲は狭いため,上記観察を行った部分にはそのような欠陥部は含まれなかったのであろう.欠陥はTEMのスケール以内であるが,存在確率は観察視野以上に大きいものであると考えられる.
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