Research Abstract |
本年度は,奈良県五條吉野山林流域における水文観測を継続的に実施した他,同流域及び研究分担者の武田が水文観測を実施してきた島根県東部山林流域を対象として,林学分野で多用されている水循環モデル(Hycymodel;福嶌・鈴木,1986)を適用し,間伐が流況に及ぼす影響について検討した. まず,五條吉野山林流域の1990-1999年の水文資料に基づいて,同モデルのパラメータを試行錯誤的に探索した後,ハイドログラフの再現性を調べたところ,長期流出量の再現性はまずまずで,洪水流出量の再現性はかなり良好という結果を得た.間伐に関連するパラメータと考えられる樹冠・樹冠遮断の最大貯留深,蒸散量を決定する係数,表層土壌の有効土層深がハイドログラフ(流況曲線)に与える影響を調べる感度分析も実施している.次いで,間伐が実施された島根県東部山林流域で観測された1999〜2006年の水文資料に基づいて,水循環モデルを適用し,間伐の実施に伴う流況変化について検討した.間伐後の隆雨遮断量と蒸散量を間伐前の7割程度に減らすことで,間伐前後のハイドログラフを概ね再現できた.間伐を実施した場合と実施しなかった場合の計算ハイドログラフを比較したといろ,間伐してから数ケ月経過した後は,間伐有りの流量が間伐無しの流量よりも常時大きいことが示された.また,計算結果によれば,間伐を実施した場合,蒸発散量の減少に伴って表層土壌水分が高く保たれることから,出水時の有効降雨量が増大することが示唆された. なお,研究代表者は,平成19年度農業農村工学会大会講演会における企画セッション「水文学から見た『緑のダム』の評価と展望」のオーガナイザーを務めた.田中丸と武田は,同セッションにおいて,本研究課題に関連した研究業果をそれぞれ発表している.
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