Research Abstract |
本年度は,奈良県五條吉野山林流域での水文・水質観測を継続した他,流域内のスギ人工林斜面と自然雑木林斜面に設けたプロットにおける土壌物理性調査,シリンダーインテークレート試験,植生調査(樹高測定)を実施した.その結果,スギ人工林のプロットは間伐が不十分であること,スギ人工林の方が自然雑木林よりもやや透水性が小さいが,大きな差はないこと等が分かった. 一方,山林の植生や森林管理の違いの間接的評価指標として,流域からの土砂や物質の排出量の変化を取り上げることができるが,この指標を利用するためには,流域からの流出負荷量を精度よく算定する必要がある.そこで,本年度は,五條吉野山林流域の水質・流量観測データを利用し,流出負荷量を流量・時間によって説明する回帰モデルに基づいて総流出負荷量の不偏推定量を算出するプログラムを開発した.その結果,提案プログラムによれば,従来法よりも良好な推定量が得られることが示された. また,研究分担者の武田が水文観測を実施してきた島根県東部山林流域では,観測期間中に間伐が実施された人工林の2流域に直列3段タンクモデルが適用され,最適パラメータが同定された,その結果,中小規模の出水では間伐遅れの流域の流量が対照流域の流量よりも多く,大規模な出水では逆に対照流域の流量の方が多くなるという観測ハイドログラフの傾向がタンクモデル・パラメータによって表現できた.また,間伐後における流量変化は,蒸発散量の減少によって表現することが可能であった. なお,研究成果発表として,米国地球物理学連合秋季大会(サンフランシスコ)において,昨年度から検討している水循環モデル(Hycymodel;福嶌・鈴木,1986)を島根県東部山林流域に適用して,間伐前後の流況変化を再現した結果と,上述の総流出負荷量の不偏推定量を算出するプログラムの五條吉野流域への適用結果を報告した.
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