Research Abstract |
自然免疫系のMD-2タンパク質は細菌のリポ多糖(LPS)を認識し,細胞表面の受容体Toll-Like-Receptor 4(TLR4)に認識情報を伝達する。細菌感染による重篤な敗血症ショックは,このLPS認識の過度の応答により惹起される。研究では,これらタンパク質によるLPS認識応答の構造的な要因などをX線結晶構造解析によって明らかにするため,これらタンパク質の発現,性状解析と結晶化,X線解析を進めた。 ヒトMD-2については,メタノール資化性酵母に大量のタンパク質を発現でき,付加されているN結合型糖鎖を均一に短鎖化し,高純度に精製した単量体画分から結晶を得た。先に得られた結晶は双晶の兆候を示したが,最終的に単結晶を得て,X線回折データを測定した。 エンドトキシンであるLPSの骨格部はリピッドAであり,リピッドAとその前駆体リピッドIVaなど,各種リガンドとMD-2との結合を調べた。その結果,アンタゴニストであるリピッドIvaとMD-2との複合体の共結晶を得ることができた。 MD-2のみのネーティブ結晶の構造を多重重原子同型置換法で,リピッドIVa複合体の結晶構造を同型置換法で,それぞれ分解能2.0Åと2.2Åで解析した。その結果,MD-2は大きなポケット状の疎水性cavityを持つこと,cavityにはネーティブ体ではミリスチン酸が,複合体ではリピッドIVaが結合していることが明らかになった。これら知見は,LPS応答を遮断する敗血症治療薬の開発に有効な構造知見をもたらすものである。 ヒトTLR-4については,新たに,細胞外ドメインの全長(約610アミノ酸残基)を昆虫細胞で発現させることとし,大量発現のための系の構築を行った。蛋白質の発現を確認できたので,次年度に精製,結晶化とX線解析を進める計画である。
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