Research Abstract |
これまで,われわれは2.5ATAの高気圧酸素(HBO,100%酸素,1日1時間,連続5日間)に暴露することにより,中枢神経における虚血障害が軽減される(クロストレランス)ことを明らかにしてきた.本年度は,HBOによる虚血耐性獲得の至適条件の検討を行うとともに,マイクロアレイを用い,クロストレランス獲得のためのgenomic responseの検討を行った.HBOの圧を100%酸素1ATA,2ATA,2.5ATA,3.5ATAとし(コントロール:room air 1ATA)(n=6),1日1時間を連続5日間行った.最終のHBO終了の12時間後に各群に両総頚動脈閉塞+脱血(平均動脈圧50mmHg)8分間の虚血負荷を与え,虚血再灌流7日後に海馬CA1の生存神経細胞数を計測した.結果:海馬CA1の生存神経細胞数はコントロール群4±7/mmに対して,1ATA,2ATA,2.5ATA,3.5ATA群でそれぞれ18±22,58±18*,65±17*,120±3*/mm(* vsコントロール,p<0.05)であった.これらの結果をもとに次にHBOによる条件付け(3.5ATA,1時間/日,5日間)を行った後,6,12,24,72時間後(HBO-6h,12h,24h,72h群)にラット脳より海馬CA1を取り出し,マイクロアレイを用いたgenomic responseを検討した.遺伝子の発現パターンをK-means cluster法でグループ化した後に,Statistical Group Comparison algorithm(GeneSpring)によってHBO-12,24h群を頂点とした有意な発現変化を示した遺伝子(p75 neurotrophine feceptor, CCAAT/Enhancer binding protein δ,CD74)をHBOによる虚血耐性誘導にかかわる重要な遺伝子群の候補とした.今後,より詳細な検討を加え,中枢神経系の虚血耐性機序の解明とクロストレランスの治療応用の研究を進めていく予定である.
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