Research Abstract |
有形資産を多く持たないバイオベンチャーがデスバレーを克服するには,知的財産は担保として非常に重要である。特に,創薬型バイオベンチャーが発見したコンパウンドの上市には10年以上の期間,100万分の1の成功確率で莫大な投資が確実に必要となる。他方,上市してすぐにジェネリック医薬企業が市場に参入すれば,また,開発期間が長いほど上市した医薬品の特許の有効期間も短くなり,開発投資の回収が困難となる。こうして現時点での不可逆的な埋没コストとしての投資に対して将来の収益が不確実な場合,合理的な投資判断への1指針としてリアルオプションを挙げることができる。特定のバイオベンチャーを想定した数値計算によって,2種類のリアルオプションの設計によって負のNPVから正のENPVへの変換可能性を1点推定法にて証明した。また,モンテカルロシミュレーションの使用によって,その内の1種類のリアルオプションからのENPVの期待値を,オプションがない場合でのNPV期待値の負から正に移行させ得たことと同時に,標準偏差を尺度とするリスクも低下させることができた。また,知財を基礎とするベンチャーから大学等へのライセンス対価としてのロイヤルティ支払方法へのダイナミックオプティマイゼーションの応用によって,事業のENPVを最大化するためのロイヤルティの最適な設定方法についての解も得た。さらに,バイオベンチャーがデスバレーを克服す方法として,資本市場に加えて,製薬大企業との戦略的提携が考えられるが,不確実性回避にともなうオプションの柔軟性の価値と,潜在的なライバルとしてのパートナーとのコミットメントの価値との間のトレードオフの最適化を,実験的な手法としてのオプションゲームの概念の応用によって検討し,フリーライドを防止しながら提携するための指針になり得る論理を数値計算によって導き出した。オプションゲームはリアルオプションとゲーム理論とを統合する新しいアプローチであり,オープンイノベーション促進に貢献する可能性を有する。研究成果の一部は,海外の大学出版の図書や海外のジャーナル論文にて公表した。
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