Research Abstract |
心の科学に関する語彙と概念の機械可読辞書を,(i)研究者間の適切なコミュニケーションを支援する,(ii)初学者の学習を支援する,(iii)言語間の適切な翻訳を支援する,ために構築することが本研究の目標である.これを,知識工学およびインターネット技術の成果の上に実現するので,本研究は心の科学に関わるオントロジーの設計と構築の一般論をめざすことになる.具体的な学術領域として,認知科学(すでに成立した,しかし流動的な側面ももつ領域)と知識資源学(形成途上にある領域)についてのオントロジー構築を試みた. 一般的に概念の定義に必ずといっていいほど侵入してくる,視点依存性,理論負荷性の問題は,認知科学,知識資源学においても顕著である.心や知識に関わる概念それぞれに単一の普遍的定義を与えることはほとんど不可能である一方,理論的立場を固定するならば,実用的な定義を与えることは十分に可能である.といっても,ある研究論文なり研究発表なりがどのような理論的立場,社会的背景をもっているかは,一般には明示的に述べられないので,その適切な推測のためには,十分な専門知識が必要となる.こうした状況が問題となるのが,(i)研究者間のコミュニケーションであり,(ii)初学者における学習である.これを(i)コミュニケーション・ギャップ,(ii)専門性ギャップの問題として定式化し,実用的な機械可読辞書を設計するための指針として用いることができることを示した.また,定義問題は,(i)すでに提案されている理論なり著作において,ある概念がどのように定義されているかを扱う場合=理解・解釈問題としての定義と,(ii)研究活動を通じてある新しい概念を提案する場合=創造問題としての定義,に分けて考えることができることも提案した.
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