Research Abstract |
1.はじめに:ダウン症児の言語発達は,運動,認知,社会性などの発達に比べて遅れが顕著であるといわれている。言語発達の遅れの要因として,認知構造の特異性,聴覚的刺激受容の機能的脆弱性,発声発語器官の運動機能の未熟性などがあげられる。認知構造の特異性として,聴覚-音声回路の障害,聴覚的短期記憶の能力が低いことが指摘されている。今年度は,ダウン症児の言語表出の遅れの背景にあると考えられる認知特性を明らかにすることを目的とする。 2.方法:対象は,ダウン症児6例(男5例,女1例),年齢は6〜8歳である。方法は,新版K式発達検査,S-S法言語発達遅滞検査,絵画語彙発達検査を用いて各症例の認知および言語発達を比較した。 3.結果:6例とも軽度〜重度の知的障害を伴っていた。言語表出は,助詞を含む2〜3語文がみられるもの2例,単語表出が主であるが2語文もみられるもの2例,単語表出のみが2例であった。S-S法言語発達遅滞検査を実施した4例の記号形式-指示内容関係(受信面)の段階は,3語連鎖の受信が可能なものが1例,2語連鎖の受信が可能なものが2例,事物の記号(音声記号)の受信が可能なものが1例であった。各症例において,新版K式発達検査の認知・適応領域と言語・社会領域の発達指数を比較すると,認知発達>言語発達;3例,認知発達=言語発達;2例,認知発達<言語発達;1例であった。聴覚的短期記憶について数の復唱または語系列の記憶課題を行った5例とも2数復唱または2単語の記憶が可能であった。会話明瞭度は個人差がみられたが,全例に未熟構音が認められた。 4.考察:言語発達は知的発達のレベルと関連性が高いが,認知領域の発達段階に比べて聴覚的短期記憶能力の低い症例がみられ,聴覚的短期記憶の範囲が言語発達(語連鎖の理解・表出)に影響を及ぼしている可能性が考えられる。
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