Research Abstract |
有害化学物質の生態リスクをメダカ個体群の絶滅リスクで推定するのに必要な,基礎的な生態学的データを収集した.また,農業排水や生活排水などによる水系の汚染が生物多様性に与える影響にも着目した.茨城県霞ヶ浦(北浦)周辺における農業排水路(堤脚水路)を中心に,メダカ個体群の相対的個体密度および体サイズ分布変化を測定し,水質や水路の物理的構造,水生生物の多様度を調査した.環境データに関しては,20箇所の調査地において,5月上旬から9月上旬にかけて5回,水深,透視度,溶存酸素(DO),水素イオン濃度(pH),底生物種数,淡水魚個体数,動物プランクトン密度などを測定した.その結果,水質(透視度,DO,pHなど)は,季節的な変動が大きく,春から夏にかけて溶存酸素と水素イオン濃度が連動して低下する傾向にあること,また,季節的な変動に加えて調査地による空間的な変動も大きいことがわかった.このことは,水田排水路の水環境は春から夏にかけて腐食質に変化していくこと,その度合いが場所によって異なることを示している.しかし,調査地間の比較から,底生生物(貝類,水生昆虫,大型甲殼類など)と小型淡水魚(メダカ,モツゴ,フナ,タナゴ,ハゼ類など)の多様度や個体数と,水質との明確な相関関係は得られなかった.一方,水路の物理的構造を特徴付ける水際線の自然度(水際線が人口コンクリート河岸ではなく土壌や植生で覆われている比率)と,種多様度もしくはメダカの個体密度とは統計的に有意な相関が得られ,水田用排水路の整備が水生生物の多様性に大きな影響を与えていることが判明した.今後,低質度に吸着した農薬の濃度と生物多様性の関係を調べ,水質汚染と生物多様性の関係をより詳細に調査する予定である.
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