2005 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17520005
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
古茂田 宏 一橋大学, 大学院・社会学研究科, 教授 (80178376)
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Keywords | 進化 / 倫理 / 勝者の論理 / 文化的遺伝子 / 模倣 |
Research Abstract |
今年度は、デネットやウォディントンら、進化論と倫理学の関係を研究するにあたっての基礎文献を読解する一方、中間的総括として、進化論的人間論の視角から戦争論をまとめた。人間の攻撃本能を進化論的に説明した動物学者ローレンツ、進化という時間的変容が脳の空間的布置にいわば地層化されているとする脳科学者マクリーンらの知見に加えて、人類学者ダイアモンドらの「古代的」殲滅戦争論をも視野に収めた。これらを踏まえれば、人間にひろくみられる戦争や攻撃への傾斜たる「悲しい性(さが)」が、一部生物進化論的な背景をもつことは確かであろう。だがしかし、戦争への傾斜が完壁な適応度を持って選択されたとすれば、もはやそれを「悲しい」と感じるメンタリティそのものも淘汰されたはずであって、この「倫理」への傾動(感情)をどのように説明するか--それをもまたメイナード・スミス流の進化生物学的なロジックで記述するか、それとも生物学的遺伝子のロジックとは独立のメカニズムを模索するか--が次年度以降の大きな課題として焦点化された。ここで重要なのは、進化論という「勝者の論理」「事実の論理」とは別個の「倫理」という超越的次元を設定するのではなく、進化というものを、蛋白質合成の指令書たる遺伝子という自己複製子を選択単位とする生物進化という次元でのみ捉えるのではなく、模倣によって伝播される広義の文化的思考・行動パターンの変異と選択という次元にまで拡張して捉え直す見方である。倫理の問題を、この狭義の進化と広義の進化とのダイナミクスのなかで再把握する上で、ブラックモアらが彫琢しつつある文化的遺伝子(ミーム)の議論が決定的に重要だという見通しも得られた。来年度には翻訳が完成する予定のコンディヤック『動物論』における模倣論も、この流れで捉え直す予定である。なお、翻訳したウォルツァーのアメリカ論も、文化的遺伝子論において重要なミームプール論として最終的には捉え直されるものである。
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Research Products
(2 results)