2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17520005
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
古茂田 宏 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (80178376)
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Keywords | 進化 / 倫理 / 勝者の論理 / 文化的遺伝子 / 模倣 |
Research Abstract |
18年度は、古典的なダーウィニズムの機械論的なメカニズム--ランダムな個体変異、遺伝的伝達、多産性から来る競争、ニッチにおける適応度の差異による選択淘汰--が、単に生物学上の自然淘汰のロジックとしてのみならず、より広い文化的生成物の世界においても働いているのではないかという見通しのもと、現代の文献と18世紀フランスの文献の読解を平行して行った。 この過程で、コンディヤックの『動物論』における模倣論の重要性にあらためて注目することになった。コンディヤックは、「同一種に属する個体は、その種内において互いに模倣しようとする傾向が低ければ低いほど、より斉一的な仕方で行動すること。それゆえ、人類が個体間でこれほど異なっているのは、もっぱら、人類が全ての動物の中で最も模倣しあう傾向を強く持っているという理由からであるということ」(第2部第3章)と述べ、普通、「猿真似」などと軽蔑されるむきのあるイミテーションこそ、その過程におけるミスコピーを発生させ、そこでうみだされる多量のミスコピー同士の競争と淘汰をも生じさせるという意味でプロダクティヴなものなのだ…という画期的な見方をうちたてたと見ることができる。 最も模倣性の強い存在こそが、最も個性的で多様な存在になりえたというこの逆説的発見は、リチャード・ドーキンス/スーザン・ブラックモアらのミーム論の萌芽が、全く文脈を異にする18世紀の感覚論哲学において準備されていたという点でも、きわめて興味深い。遺伝子による文化決定論のような、バランスを欠いた議論が幅を利かせつつあるが、こうした議論に対する適切な批判を構築するためには、形而上学的な自由や魂の自律といったものを天空から要請するのではなく、DNAによる複写機構とは独立の複写機構(人間の創造的模倣)の実態に迫ることが求められている。まだその萌芽的アイデアを提示するにとどまっているが、今後、本格的な展開に向かいたい。
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Research Products
(3 results)