2007 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17520005
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
古茂田 宏 Hitotsubashi University, 大学院・社会学研究科, 教授 (80178376)
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Keywords | 進化 / 倫理 / コンディヤック / 模倣 / 性選択 / 共同体選択 |
Research Abstract |
哲学史的な研究としては、コンディヤックの『動物論』の訳稿を完成させ(今年夏に刊行予定)、かつ、それが批判対象とした18世紀最大の博物学者ビュフォンの膨大な『博物誌』との照合作業をすすめた。コンディヤックはカトリックの教義にしばられたこともあって進化論的な議論は一切していない。しかし、デカルトにおける人間と動物の原理的峻別、およびこの公理を不徹底な形で引きずるビュフォンに比べて、動物と人間との連続性-それは、メトリのような身体的な機能上の連続性というよりむしろ、魂の機能における連続性であるが-を強調する点で、しかも精神的諸機能を単純な受動感覚から一種の非目的論的・自然選択的アルゴリズムのような過程を介して展開するものと捉える点で、意外なことに進化論的発想を先取りしているということを発見した。これは現代における進化心理学や認知科学の基本姿勢とも重なるものがある。また、このような連続性を背景にした上で人間の独自性の端緒を、一見非創造的な人間の模倣衝動に見出したこと、人間は互いに模倣しあうからこそ他の動物には見られない多様性を生み出したのだという論点がこの『動物論』の最大のポイントであることを確認し、あわせてコンディヤックにおける自然主義的な倫理学の構想をも読み取ることができた。現代的な文献においては、とりわけエリオット・ソーバーやマイケル・ルースの諸著作、そして自然選択説では説明できない文化的な行動や思考の進化を性選択、あるいは共同体選択とも呼ぶべきパラダイムで解明しようとするジェフリー・ミラー、また霊長類の社会的行動という文脈のなかで初期人類における言語起源論を論じたロビンズ・バーリングやロビン・ダンバーらの仕事を18世紀の言語起源論と重ねながら読み、多くの示唆を与えられた(この仕事をまとめた論文も今年秋に発表予定)。いまだ、進化論と倫理学の関係についての本格的な研究は緒についたばかりであるが、その前提となる作業はとりあえず終えた。また、これに関連して、終末期医療に関する社会的発言も行った。
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Research Products
(3 results)