2005 Fiscal Year Annual Research Report
満足する理性。カント実践哲学への感情論的アプローチ
Project/Area Number |
17520024
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Wakayama Medical University |
Principal Investigator |
竹山 重光 和歌山県立医科大学, 医学部, 助教授 (60254520)
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Keywords | 感情 / カント / moral motivation / moral psychology / Zufriedenheit |
Research Abstract |
本年度は、心理学や脳科学をも含めた最新の「感情」研究文献収集と読解、カント自身の実践哲学関係著作の読解、そして、カントにおける行為を対象とした研究文献の収集と読解にあてた。研究の地盤作りである。これはもちろんたった一年間で終了できるような作業ではない。今後もこの作業は続ける。 上記作業を通じて現時点で暫定的に明らかになったことを以下に記す。 「感情」は、現在の心理学や脳科学においては、理性や知性と対立的に捉えられておらず、認知や行動と常にともに働き、むしろそれらを規定する基盤的働きをするものと捉えられている。こうした感情の捉え直しは英語圏を先駆とするが、すでにドイツ語圏でも行われており、現象学的感情論の伝統ともあいまって注目すべき研究動向を示しつつある。 カント研究においても、こうした捉え直しを顧慮しつつ検討が行われつつある。カント実践哲学はその基本性格として「規範もしくは義務の倫理学」であり「善き生の倫理学」ではないが、「善」と「義務」とは決して乖離するものではありえない。おそらくはこの点において、「(道徳的)感情」が成立してくる。カントにおいても「義務概念一般に関する心の感受性の感性論的予備概念」を論じたテキストがあり(『人倫の形而上学』)、感情と義務との通路は設定されているのである。カント研究ではこれまでmoral motivationの角度から、「尊敬」を主として、感情に目が注がれてきたが、おそらくはmoral psychologyの角度から研究を進めることが今後の要点であろう。Zufriedenheitはそこに確実に出現してくるはずである。そしてこの角度からの研究は世界的にもまだ進められていない。
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