2006 Fiscal Year Annual Research Report
組織崩壊に瀕する長崎県下カクレキリシタンの緊急調査研究
Project/Area Number |
17520063
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Research Institution | Nagasaki Junshin Catholic University |
Principal Investigator |
宮崎 賢太郎 長崎純心大学, 人文学部, 教授 (60157625)
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Keywords | カクレキリシタン / 異文化変容 / 組織崩壊 / 重層信仰 / 民俗宗教 |
Research Abstract |
昨年(平成16年)長崎市において「さるく(歩く)博」という旅博覧会が開催され、長崎のキリシタン関連史跡は観光の一つの目玉として人気を集めた。また本年1月には近年地元で運動が続けられてきた「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」がユネスコの世界遺産に推薦され、官民一体となって大きな盛り上がりを展開し始めた。そこに江戸初期に日本各地で殉教した188人の日本人カトリック信者がローマ法王庁から福者に認定され、列福式が11月に日本で行われるというニュースが入ってきた。 この3つのイベントないしニュースは、世間のキリスト教に対する関心をさらに高めた。このこと自体は喜ばしいことであるが、行政や経済界が観光産業の振興のために、またキリスト教教団が信仰の高揚のために利用しようとするとき、潜伏キリシタンは幕末・明治初期まで230年間、カクレキリシタンは今日に至るまで、350年の長きにわたって仏教を隠れ蓑として、命がけでキリスト教信仰を絶やすことなく守り続けてきたという、実態からはほど遠いロマンティックな幻想的イメージを再構築しようとしている。今まさに消滅しつつあるカクレの信仰の真の姿(本質)を明らかにしようとする本研究の趣旨とは全く相反するものである。 これまでの調査者の20年以上にわたる一貫した長崎県下のカクレの調査によって、彼らは隠れてもいなければキリスト教徒でもないということは明らかで、きわめて重層信仰的で、篤く先祖を祀り、現世利益を徹底して求める、典型的な日本の民俗宗教の一つである。その彼らがいまカクレキリシタンの信仰を放棄しようとしているのは、心の中心的な拠りどころを喪失しようとしているのではなく、何枚も重ね着している中で、古くなりサイズも合わなくなった1枚のシャツを脱ぎ棄てるに過ぎず、むしろすっきりした、早く脱ぎたかったというのが、多くの解散していった信徒の偽らざる本音である。解散して寂しいという気もするが、呪縛から解放されて安堵したというのが多くの信徒の偽らざる心境である。
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