2007 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17520123
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Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
中根 千絵 Aichi Prefectural University, 文学部, 准教授 (80326131)
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Keywords | 今昔物語集 / 本文 / 享受史 |
Research Abstract |
今年度は、未紹介本今昔物語集の紙焼き写真に基づき、二〇巻から二五巻まで旧日本古典文学大系今昔物語集、新日本古典文学大系今昔物語集の解説と頭注を基に諸本との比較を行った。比較の結果について、コンピュータにうちこみ、わかりやすく表にまとめる作業を行った。巻三の表について分析を加え、論文の形で公表した。巻三まで、連続して分析をすすめたことで、今回、今後の分析の指標となる貴重な分析結果が得られた。分析結果は次のようなものである。『今昔物語』巻三の本文の異同を見ると、彦根城博物館所蔵『今昔物語』と同じ表現を多くもつのは内閣文庫本ABCと東大本乙である。それは、巻一、巻二の場合と変わらない。巻三の場合に顕著な傾向として現れるのは、古本系のうちの野村本との一致度が高いということである。巻一の分析では、彦根城博物館所蔵『今昔物語』は、流布本系諸本と古本系諸本の間の状態を有する希有な本であるということを指摘したが、巻三では、特に、野村本が流布本系と古本系との狭間で揺れている様を見てとることができる。『今昔物語』巻二の本文では、古態本が鈴鹿本を正確に書写していて、流布本系の表記と一線を画すのに対し、巻三の場合には、鈴鹿本を有しない影響なのか、野村本は流布本の表記の影響を大きく受けていることが見て取れる。この分析結果から、次のような知見を得た。古態本系は、基本的には、原本通りに正確に写し取ることを目指した書物群である。そこで、たまたま、出会った書物が流布本系であれば、流布本系の表記を引き写すことになる。流布本系については、校訂本文を目指した書物群ではないかと推測した。八幡宮羽田文庫に訪れ、文庫の有する書籍の概観を調査した。国文学資料館の有する今昔物語集の紙焼き本を入手した。これにより、これまで日本古典文学大系に頼ってきた幾つかの本について、間違いがないか確認することができた。
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