2005 Fiscal Year Annual Research Report
異人/犯罪表象をめぐる近世初期英国の宗教的・世俗的言説間の照応関係についての研究
Project/Area Number |
17520142
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
境野 直樹 岩手大学, 教育学部, 助教授 (90187005)
|
Keywords | 英国演劇 / 宗教詩 / パンフレット |
Research Abstract |
研究初年度にあたり、「異人」の再定義のための一次資料の渉猟を広く行った。具体的には東京大学所蔵のEarly English Books Onlineによって、近世初期英国社会における「他者」像の分析をしたが、とりわけパンフレットにおける「狂気」の社会への撹乱要素としての記述が犯罪の表象と密接に結びついた例を多数取材することができた。その際、単に説話の伝統や表象の形式に由来する類似のみならず、たとえば同一の出版業者が所有する木版画を使い回すことによる、イメージの流通・共有化といったきわめて興味深いケースも散見された。シェイクスピアの『リア王』中、エドガーによる「ベドラムのトム」への変装が描かれるが、これはたとえばトマス・デカーのパンフレットBellman of Londonの表紙の木版ときわめて高い近接性を示す。このことから『リア王』のQ1テクストを大衆劇場でのスペクタクル性をより重視した作品として再評価できる可能性を指摘した。 罪の意識を外在化することを試みる精神構造は、同時代の宗教的文献にも色濃く表れている。たとえばJohn DonneのDevotions upon Emergent Occasionsには、正体を特定できない病魔との闘病生活が祈りへと展開する課程において、現員の外在化・内在化の二極分化が試みられる。もちろんここでの「罪」は神との関係性における罪(Sin)であるけれども、世俗文献における「罪」(人間相互の関係性における(crime))を共同体の「外部」に定位しようとするこころみと共振しつつ、宗教改革の言説とも呼応する可能性が確認された。
|