2007 Fiscal Year Annual Research Report
異人/犯罪表象をめぐる近世初期英国の宗教的・世俗的言説間の照応関係についての研究
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17520142
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
境野 直樹 Iwate University, 教育学部, 教授 (90187005)
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Keywords | ルネサンス / 英国演劇 / 異人表象 |
Research Abstract |
主として16〜17世紀演劇における異人、とりわけユダヤ人表象とムーア人表象について研究を行った。P. MassingerのA New Way to Pay an Old Debtにおいては、ユダヤ人の金融業者OverreachとShakespeareのMerchant of VeniceのShylockとの比較において、ユダヤ的旧約的価値観が、じつは当時の社会に急速に広がり始めていた「資本主義・市場経済」のモラルを反映しつつも、喜劇の大団円では否定される価値として描かれていることに着目。これを出し抜こうとする「新手の手法」と呼ばれるものが、その道徳的価値判断の準拠枠として、むしろ古風な、「贈与、奉仕」というモラルに依拠するというアナクロニズムに支えられていることに気づいた。市場の冷徹な論理の浸透する社会が、喜劇においてそれを乗り越えるために、贈与のモラルヘと回帰する現象の背景に、anti-Semitismの主題を読み込むことができそうとの感触を得た。 一連の都市喜劇研究の成果の一部は、研究代表者がコーディネータをつとめた第46回シェイクスピア学会(於、早稲田大学)の公開セミナー2『ミドルトンーマネー・セックス・ゲームの劇空間』でも発表した。また、上記、「贈与、奉仕」の具体的実践形態としての家父長制が、資本の論理とせめぎあう場での封建制のゆがみの象徴として、資本化される性とそのエージェントとしての私生児という記号のもつ演劇的意味について考察し、論文にまとめた。
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