2008 Fiscal Year Annual Research Report
異人/犯罪表象をめぐる近世初期英国の宗教的・世俗的言説間の照応関係についての研究
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17520142
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
境野 直樹 Iwate University, 教育学部, 教授 (90187005)
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Keywords | 近世英国演劇 / ミドルトン |
Research Abstract |
昨年度からの継続で、トマス・ミドルトンの作品を重点的に研究した。同時代の演劇作品のなかでも、聖と俗の切り分け・融合・格下げ・パロディなど、これまでの研究で考察し設定してきたcriteriaにおいて、格段にダイナミックな作品群であることが、その大きな理由である。また、オックスフォード大学出版局からの大部な新・全集が刊行されたことも、本研究にとって幸運であった。ミドルトンの演劇、パンフレットにおいては、世俗パンフレットの文体・手法を一見踏襲する身振りのなかに、同時代の説教文学からのverbal echoというべき引用・パロディが、あからさまなかたちで散見される。ジョン・ダンのDevotionsがその身体性をさらけ出すことで宗教的主題を世俗化・公共化することを試みるのと同じ戦略を逆転することで、ミドルトンは宗教的な言説の世俗化をめざし、語彙、修辞双方のレヴェルにおける、宗教的言説と世俗的言説の壁の分断を試みる。これは言語としての英語の近代における活性化につながる言語使用の実践であった。 かくして宗教家たちが警戒した「神から贈与されたことば」の濫用は、世俗的言説に、たとえ時に換骨奪胎されたにせよ、「引用」されることで、逆説的なかたちで宗教言説そのものの、民衆への定着に寄与することとなった。「聖なるものの世俗化」は、格下げであると同時に偏在に向かうプロセスでもあった。英国プロテスタンティズムの構成要素には、このようなかたちで、言語の「世俗化」のプロセスがかかわるごとの認識が重要であるとの結論を得た。
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Research Products
(1 results)