2005 Fiscal Year Annual Research Report
モダニズム文学の身体表象のパラダイムに関する理論構築
Project/Area Number |
17520151
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田尻 芳樹 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 助教授 (20251746)
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Keywords | モダニズム / 身体 / テクノロジー |
Research Abstract |
本年度は4年計画の初年に当たるので基礎的研究の充実を図るように心がけた。17年5月に、日本大学における日本英文学会大会で「モダニズム、感覚、テクノロジー」と題するシンポジアムを、林文代、武藤浩史、堀潤之の3氏とともに手がけ、私はモダニズムにおける共感覚(synaesthesia)の重要性について発表した。モダニズム期の文学・芸術における身体を考える上で重要なのは、断片化と再結合という原理であり、音を見る、色を聞くなど、感覚が交差する共感覚は、その一つの発現形態と考えられる。ここで概括的に論じた内容をさらに詳しく検討するのが今後の課題である。8月にはフランスのスリジー・ラ・サールで、Samuel Beckett et la mecanisation d'Echoと題した仏文の発表を行った。これはかねてから私の研究の中心であるベケットについて、声と音声テクノロジーの連関を論じたものである。モダニズム期には写真、映画などの視覚テクノロジーのインパクトだけでなく、蓄音機、ラジオなど音声テクノロジーのインパクトも、文学・芸術において顕著である。ベケットにおいてそれがどう現れているかを彼が関心を持った神話的表象エコーとの関連において追求してみた。身体、さらには意識現象まで、新興のメディア、テクノロジーに浸透され、人間と機械の境界があいまいになる、という今日までも続く事態が最初に強く意識化された時代(フリードリッヒ・キットラーの言う「1900年の言説」の時代)がモダニズムの時代なのであり、ベケットはまさにその申し子であったことを論証できたと思う。
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