2006 Fiscal Year Annual Research Report
モダニズム文学の身体表象のパラダイムに関する理論構築
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17520151
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田尻 芳樹 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (20251746)
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Keywords | モダニズム / 身体 / テクノロジー / ベケット |
Research Abstract |
本年度は、計画の2年目に当たり、昨年度に引き続き基礎的研究の充実を図った。2006年秋に、東京で大規模な国際サミュエル・ベケット学会が開催されたが、そのためのゲストスピーカーとして、英国ウェールズ大学のメアリー・キャサリン・ブライデン教授を招聘した。ベケット研究の世界的権威であるブライデン教授は、ベケットにおける道化師の影響について語り、聴衆を魅了した。道化的身体が、ベケットを始めとするモダニズムの芸術家において決定的な意味を持っていることを再確認させてくれる興味深い講演だったと言える。 また、ベケットについては、Samuel Beckett and the Prosthetic Body : The Organs and Senses in Modernismと題した研究書をイギリスの出版社から出版した。モダニズム期の身体表象を考えるに当たって、19世紀末以降登場して身体や感覚を大きく変容させた新しいテクノロジーとの関係を考察することは不可欠であるが、本書ではベケットという個別事例におけるその問題の表れを十分に論じえたと思う。また、ベケットと関連する多くのモダニズム作家、芸術家を合わせて論じることにより、身体の断片化とその再結合という基本原理に立脚する、モダニズム全般の身体表象の特質をもある程度明確にできたのではないかと思っている。今後は、この地点から、さらに考察を掘り下げたり、別の作家にまで同様の議論を拡大したりして、さらに理論構築を充実させていく予定である。なお、昨年度にフランスのスリジー・ラ・サールにおける学会で研究発表した、Samuel Beckett et la mecanisation d' Echoをベケット研究の専門誌であるSamuel Beckett Today / Aujourd' huiに掲載することができたことも書き添えておく。
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